5月11日(水)
ヴァン――という轟音と同時に、約五メートル先に置かれた窓ガラスが真っ白になった。普通は軍隊でしか使わない大口径、44マグナム弾が打ち込まれたのだ。硝煙の中、近づいてみると穴はなく、へこんでいるだけだった。「一日中見ていても飽きないですね、これは」。サンパウロ総領事館警備班の大熊博文領事は視察した直後、そう感想を語った。五日午後三時から、ブラジル日本商工会議所の安全対策チーム(鍋島直裕リーダー)会員約三十人が、バルエリ市にある防弾車製造会社TECPROを見学した。
大熊領事は「日本では警 察車両でさえ防弾車はほとんどありません。政府要人を運ぶ一部の専用車両に限られます。防弾車の技術に関して、ブラジルは先進国でしょう」との認識を述べた。
ブラジルは世界最大級の市場があると言われ、全部で約六十社の類似企業があるが、うち正式登録しているのはわずか十二社程度だと、同社のヴィットル・サロモン氏は説明した。国内で二万五千台から三万台の防弾車が走っており、月に三百~四百台が生産されている。
同社の創立は九九年で、操業開始した〇〇年には六十二台(売上げ百十八万レアル)、昨年は百二十三台と倍増し、計四百七十五台を数える。〇五年の予定は百四十四台(六百五十万レアル)。その以前は光ファイバーなどを製造していたが九六年に売却した。素早い転身だ。現在の従業員は五十人。
防弾ガラスは、通常の車用ガラスを三枚程度重ねて自作する。間に透明な特殊シートを、一番内側にポリカーボンシートを貼ることで、内側への通弾やガラス飛散を防ぐ。
同社では自作した防弾ガラスのロッテごとに着弾試験をする。二十センチ角の四隅と中央部に44マグナムを打ち込んで、貫通しないことが合格条件だ。
車体全体にもアルミやステンレススチール、防弾チョッキと同じ素材で曲面に応じて補強。通弾しても走れる特殊なタイヤに交換する。約四十日間かかり、加工費用は約六万レアル。保証は二年間。トヨタのカローラをレベルⅡで防弾すると百六十キロ、ⅢAだと二百キロ重くなる。レベルが高いほど安全度は増すが、重量と費用はかさむ。
「重量の分、運転感覚が変わる」「ちょうつがいに部分に負担がかかるので、防弾車の扉を開けたままにしないで下さい」「タバコを吸うからと窓をあけると防弾にした意味がなくなります」などの注意事項も説明された。
警備会社LIFESEC社の柳田浩治氏(元軍警大佐)は、「サンパウロ市の路上犯罪で44口径を使うことは、まずない。だから一般的にはⅡクラスで充分役に立つ。また同じ場所を二度撃たれたらダメ。少しでも動けるように、停車する時は車間をとるようにしてください」と防弾しても完璧ではないことを強調した。