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セラードの生態系を守れ=―JICA協力、動物の移動経路確保へ―=連載(1)=シャパーダ・ドス・ヴェアデイロス=言葉失うほどの景観

5月17日(火)

 ブラジルのへそ、中央高原。シャパーダ・ドス・ヴェアデイロス(CHAPADA DOS VEADEIROS)国立公園が〇一年十二月、ユネスコの世界自然遺産に登録され、エコ・ツリズモのスポットとして人気を集める。実はこのセラード地帯、生物多様性の宝庫だ。農地拡大、山火事、不法伐採などで森林が減少。絶滅が危惧されている種もあるという。IBAMA(ブラジル環境再生可能天然資源院)は同公園を核に、パラナ─ピリネウス地域で生態コリドー計画(動物の移動経路を確保するための緑の回廊)を展開中だ。国際協力機構(JICA)が、長・短期専門家を派遣するなどして技術協力。統合的な生態系管理の改善に取り組んでいる。
 急峻な遊歩道を七百メートル下ると、視界が広がった。落差百二十メートルと八十メートルの滝が並んで、辺り一帯に轟音をとどろかしている。「双子の滝」や「カショエイラ・デ・ガリンポ」と呼ばれているそうだ。壮観な景色をしばらく、言葉もなく見つめた。
 「観光の目玉の一つで、多くの人が来るんだ」と、ガイドのジョゼ・ルシアーノ・マシャードさん(27)がPR。JICA派遣の長期専門家でプロジェクトリーダーの城殿博さんも「カレンダー用に撮影されています」と美しさを絶賛する。
 同国立公園は、トカンチンス川などの水源地帯。公園を横切る形で、リオ・プレットが流れている。
 「水はコカ・コーラの色。でも、透き通っているでしょ。川底に砂はないんだ。魚もたくさん生息しているよ。もちろん禁猟だけどネ」とマッシャードさん。
 地平線まで続く草原に、曲がりくねった枝を持つ樹木がポツポツ。セラードと言えば、つい不毛な荒野を思い浮かべてしまう。公園内の標高は、六百メートルから千七百メートル。湿地帯から、鬱蒼とした森林が広がる。
 城殿さんは「植物相が豊か。一ヘクタールに三百~四百種ある。特長は固有種が多いこと」とステレオ・タイプなイメージをキッパリ否定した。残念ながら、きちんとした学術調査がなされていないため、基本的な情報が不足。保全すべき対象や地域を明示できていないという。
 乾季に入り、これから半年ぐらいはほとんど降雨がない。マシャードさんはこの日、水浴のスポットがあると言って、「コレデイラス」にも案内してくれた。
 その名の通り、岩が階段状に連なっているゆるやかな渓流で、タンバリが群れをなして泳いでいた。マシャードさんは「雨季に岩は沈んでしまい、流れが急になる」とニコリ。パンツ一枚になって、川に飛び込んだ。
 取材中、「ポウサーダ・カーザ・ローザ」(アウト・パライーゾ市)に宿泊した。経営者の一人は、日系二世の依田哲雄さん(ミランドポリス市出身、65)。敷地内に、桜が十五本ほど植えられている。
 二十年間、マット・グロッソ・ド・スル州とゴイアス州の州境で、精米所などを営んでいた。気候風土に魅了されて、三年ほど前に公園近くに住み着いた。「この辺りには、大小百以上の滝がある。標高も高いし、寝るのに扇風機はいらない」。
 ポウサーダは親戚との共同経営で、二年目から黒字に転換した。マッサージやサウナの専用室も近々、オープン。「日系の宿泊施設はここだけ」と胸を張る。七月に、サンパウロから日系の団体旅行客約五十人が訪れる予定だ。
 標高千五百メートルくらいあるので、朝晩は冷え込む。空気が澄んでいるためか、満天に輝く星が美しい。天の川も、はっきりと見え、手にとれそうなほどだ。所詮、都会生活者の感傷だと笑われるかもしれない。何故なら、環境保護に奮闘する人々の厳しい現実があるのだから。
(つづく、古杉征己記者)