5月18日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十日】南米とアラブ諸国首脳三十四人が九日にブラジリアに集まって投資促進会議を開いた。この会議を先進国の全く異なる価値観で考察してみると次のようだと、バルボーザ元駐米伯大使が述べた。欧米から見た南米は、安全保障に関わる問題はないし、経済市場としても戦略的にも重要性は低い。ところが中近東を含むアラブ地域は、イスラエル問題や石油問題で揺れる世界の火薬庫といえる。
イラク戦争はイスラム文明と西洋文明が交錯し、世界の行く末が絡む。世界情勢混迷の中、両陣営が接近する国際会議がブラジルで、ルーラ大統領の音頭で開催されるというのは、微妙で危険を伴い、野心的で勇気ある外交政策と言える。
同首脳会議の副産物は、ブラジルの兄弟国ともいえるアルゼンチンの反応だ。すでに南米首脳会議や南米共同体会議でも、不快感を表明していた。メルコスルの二本柱の一つだが、ブラジルが出しゃばり過ぎると面白くない。
南米アラブ首脳会議は、画期的なイベントであるにもかかわらず、招待者の半数が欠席した。ブラジルの意図は、途上国の代名詞である南ブロックで共存のメカニズムを築くことだった。両陣営が友好関係を築いて利害を共有し、外交面で共同歩調を採ることにあった。
ブラジルが南米アラブ外交を提唱したのには、色々理由がある。途上国を中心とした市場開拓、国連安保理常任理事国入りへのアラブの支持取り付け、停滞する通商関係の活性化など。
南米諸国は、国内に多数在住するアラブ系住民がアラブ諸国との通商関係で水先案内人となって、貿易拡大を進めてくれると踏んでいる。アラブ諸国が今回の会議を政治的に利用しようとする意図は明らかだった。中東地域の紛争で世界の支持を取り付けようとする意欲は真剣だ。
ブラジルが同会議の目的を経済協力だけにしぼろうとする考えが甘い。外務省の覚書によれば、多目的経済協力、通商と投資の拡大、文化活動交流、化学技術交流、社会福祉協力など。バラ色の交流だ。
しかし、中東紛争やイラク戦争、中東地域の核拡散、背中合わせのテロ活動など、外交分野で南米アラブ会議の重要性はほとんどない。米国やイスラエルの外交政策にものを申すのが、精一杯だろう。
イスラエルは、ブラジルの南米アラブ首脳会議開催を不快と感じているに違いない。アモリン外相は今月末にも事情説明のためテレ・アビブを訪問する。会議の結果がブラジル在住のユダヤ人に何ら影響を及ばさないよう、最大の努力を約束するだろう。
米政府は、会議に対して公式には何も表明していない。傍聴者として出席を予定していたが、米外務省が丁重に断った。ブラジルをスピード訪問したライス国務長官も同会議について何か言ったはずだ。ブッシュ大統領から、特にアラブ諸国へ民主主義の売り込みをするよう同長官が命令を受けたとマスコミはいう。
アラブ諸国から外交辞令で国際間の手柄になるような合意を取り付けるのは至難の業だ。カネを引き出す約束をするのは容易だが、いざカネを出させるのは難しい。双方とも相手国の内情をよく知らない。精々まとまるのは物資提供ぐらい。南米アラブ首脳会議でブラジルができることは、国連が行ったことの焼き直しぐらいだ。