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深刻なトラウマ残す営利誘拐=被害者が全貌公表=交渉不成立のたび死を覚悟=17日目にシャワー浴びる

5月20日(金)

 【エスタード・デ・サンパウロ紙十五日】身代金目的の営利誘拐は以前より鳴りをひそめたものの、昨年はサンパウロ州で百十二件発生、今年に入ってすでに二十八人が被害者となっており、犯罪の根強さを示している。犯人らは周到な計画を練っていることから検挙数も少数に限られている。警察では一千件以上の誘拐事件のあらまし、容疑者、住所、監禁場所をデータバンクに収録しているにもかかわらず、逮捕に至らないのが実状だ。被害者も死と抱き合わせの恐怖から、トラウマに陥り、警察での証言もままならず、ほとんどが精神科医にかかっている。そうした中で、二十日間監禁された後に解放されたアマンダさん(22、学生)が勇敢にも誘拐の全貌を明るみにした。通常、誘拐の手口は再犯の参考にされることから公表されないが、アマンダさんは被害者の立場から保安強化のため敢えて公表した。
 アマンダさんはサンパウロ市モエマ区の路上で、自家用車を降りたところを三人組に襲われ、ピストルを突きつけられて後部座席に押し込められた。車に入るや目をつぶれと命じられ、少しでも開けると殺すと脅かされた。アマンダさんはまぶたが痛くなるほど力一杯目を閉じた。犯人らは猛スピードで追い越し運転しながら走行を始めた。
 当初は車目当ての強盗だと説明されていたが、後に営利誘拐だと分かり、アマンダさんは腹の底から恐怖が湧き、死を意識して泣き始めた。知らぬ間に小水がズボンを濡らし、時期外れの月経が始まったことにも気づかなかった。
 携帯電話が鳴ったが出ることは許されなかった。家族が心配してかけたものだった。その直後、一味は携帯の盗品買いと連絡が取れて、サント・アマーロ区ジョン・ジアス橋近くのエストラ(スーパー)の前で取引することを聞いた。アマンダさんの携帯電話は売られてしまった。
 その後、数分とも数時間とも思える走行を終え、目を閉じたまま、一軒家の一室に通された。壁際に向かわされ、「後を向くな」が第一の命令だった。さらに物音をたてずに静かにすること、トイレに行く時は許可を得ること、トイレの戸は閉めずに開けっ放しにすることなどの命令が下された。
 監禁部屋は異臭を放ち、床のタイルはデコボコで安建築の家だった。ガラスはすべて銀色に塗りつぶされ、外部から見えないようにしていた。部屋にはベッドが一つあるだけで、マットや枕、毛布はカビだらけ。アマンダさんは窒息死するかと思ったという。昼は隣近所の話し声や子供が遊ぶ声がするが、夜は物音がしないことからファベーラの中だと想像できたという。
 翌日から犯人らは、解放するまで六十三回に及ぶ身代金要求の電話交渉を開始した。当初の要求は百万ドルだった。しかし秘かに張りついた誘拐捜査課の刑事の指示で、家族は破産状態で一文もないことを繰り返した。だが犯人らは驚くほど家庭の事情を調べ尽くしており、信用しなかった。
 交渉が不成立に終わる度に、犯人らはアマンダさんに八つ当たりして、「お前は商品だ。役に立たなければ処分するのみだ」と脅した。その都度、アマンダさんは死を覚悟したという。家族はアマンダさんの無事の確認を要求したため、犯人らは写真を送りつけた。アマンダさんは両手両足をしばられ、頭にピストルとナイフを突きつけられた上に、頭部から血を流していた。捜査課は実際の血ではなく、ケチャップだと細工を見抜いた。
 電話交渉は土、日曜日になると犯人からの連絡が途絶える。アマンダさんが見張り番から聞き出したところによると、一味の家族や親戚は犯罪人とは知らず、真面目な労働者で、週末に家族孝行をしに帰ってくると思い込んでいるという。犯人逮捕が遅れるのはこういった背景も影響している。
 十七日目、初めてシャワーを浴びる事が許された。しかし水がチョロチョロとしか出ず、硬くこわばった髪の毛をときほぐすこともできなかった。この頃から交渉は最終段階に近づき、捜査課の言った通り犯人らは二万五千レアルまで金額を落とした。
 二十日目には合意に達し、タクシーの運転手に金を託し、携帯電話で犯人の指示で迂回しながら金を放り出させた。追跡していたオートバイがそれを拾い逃走した。アマンダさんはサンパウロ市南部ジャルジン・サンルイス区のファベーラ前で車から降ろされ、目を閉じたまま百まで数えろと命令された。
 目を開けたところで悪夢は終わった。しかし、これまでの被害者同様、トラウマ症状に悩まされることは必死だ。現在サンパウロ市クリニカ病院には常時百五十人の被害者が精神科で治療を続けている。
 昨年の誘拐事件は百十二件で、二〇〇一年の三百七件、〇二年の三百二十一件から減少したものの、相変わらず高い犯罪率を示している。今年三月までは二十八件と昨年のペースと同じで、先週だけで七人が監禁部屋に閉じ込められ、アマンダさんと同様の苦痛を味わった。