5月28日(土)
ルーラ大統領は二十六日から二十八日まで日本を公式訪問し、小泉首相との首脳会談の後、デカセギ対策や百周年祭に関連した事項を含む十一の文書を交わした。百周年をにらんで、今後の日伯関係活性化の指針を検討する「日伯21世紀協議会」のブラジル側代表には横田パウロ元中銀理事や山崎千津薫監督が選ばれるなど、日系人を重視する姿勢を表明。経済関係(二面で詳報)での交流促進から、文化・学術・教育面まで多岐にわたる充実した意見が交わされた。
小泉首相のいとこ、井料堅治さんに伴われて二十六日午前に東京入りしたルーラ大統領は、「〇八年の日本移民百周年を見通し、協力と連帯の精神に基づいた新しい日伯関係を模索する必要がある」。国会議事堂での演説でそのように語ったとEFE通信は伝えた。
大統領は日本にあるポルトガル語新聞向けのあいさつ文中、自身が北東部から出聖した経験とデカセギの生活を比較し、「遠く離れた場所での先行きへの不安感など、彼らの気持ちがよく分かる。私自身、子どもの頃に豊かさを求めて故郷を後にするという同じような道をたどった」と、その境遇に共感を示した。
また、二十六日の「在日ブラジル人コミュニティに関する共同プログラム」の中で、両首脳は、教育・社会保障の分野で在日ブラジル人の日本社会への適応を強化するためにあらゆる努力を払うと強調。
社会保障分野に関して、両国当局間で作業メカニズムを立ち上げるための作業部会の第一回会合を今年九月十九、二十日にブラジルで開催すると発表した。
そのほか、「在日ブラジル人の教育改善と日本社会への適応強化を目的に、在日ブラジル人に対する日本語教育を一層促進するべく、日本の地方自治体を慫慂(しょうよう=傍らから誘いすすめること)すること」と明記した。
さらに、二十六日付け読売新聞は、在日ブラジル人子弟の教育問題では、十月に東京で教育関係の実務者、専門家らによる会合を開くと報じた。教育関連の社会プログラムについては、娯楽・スポーツ・社会開発、青年やその家族の養育施設の提供を、日本の地方自治体を慫慂することも覚書に明記し、予想通りデカセギ支援を重視した文書となった。
「文化・教育交流に関する覚書」では、百周年を視野に入れ、文化、教育、学術及び青年・スポーツ分野における交流と協力の一層促進を目指して両国は力をあわせることを確認した。
具体的には、双方の芸術家、文化人、報道関係者そのほかの文化的活動に従事する専門家の交流。美術・工芸品、写真その他の展覧・展示会、演奏及び舞台芸術公演、祭典、ワークショップ、その他の文化紹介を活発化させる。
特に日本側は、〇八年の「日本ブラジル交流年」を記念する日本美術展などの大型文化事業をブラジルで実施するための準備を進める意思を有することを正式に表明。また、さまざまな文化・学術交流を促進し、今後五年間で一千人を超えるブラジル人学生及び青年を日本に招へいすることが、改めて確認された。
二国間関係の更なる深化に向けての将来の機会について提言を得ることを目的として、「日伯21世紀協議会」を構成する両国のメンバーが発表された。
【日本側】▽座長=河村建夫氏(衆議、日伯議員連盟事務局長)▽座長代理=槍田松瑩氏(うつだ・しょうえい 三井物産社長、経団連の日伯経済委員長)▽岡本巖氏(国際協力銀行JBIC理事)▽鈴木勝也氏(元駐ブラジル日本大使)▽堀坂浩太郎氏(上智大学外国語学部長)。
【ブラジル側】▽座長=エリエゼル・バチスタ・ダ・シルヴァ氏(ヴァーレド・リオ・ドッセ・インターナショナル元社長)▽座長代理=パウロ・デルガード氏(伯日議員連盟副会長)▽リナルド・カンポス・ソアレス氏(ウジミナス社長、日本国名誉総領事)▽横田パウロ氏(元中央銀行理事、サンタクルース病院理事長)▽岡本パウロ氏(SEBRAE会長)▽山崎千津薫氏(映画監督)。
同協議会の初会合は今年八月下旬にブラジルで開かれる。共同新聞発表によれば「両国メンバーが未来志向の両国関係に存在する諸課題について大所高所から議論を重ね、両国首脳に対し〇六年八月までに、両国関係を一層高い次元にて推進していくための提言」することが期待されている。
二十七日付け産経新聞は連係を強める日伯関係の底流には、「中国がブラジルとの間で経済面だけでなく政治的な交流も深めていることから、日本としても巻き返しを図る狙いがある」と書いた。さらに「中国の中南米での動きに引っ張られることで、今後、日本の対中南米外交が変化を迫られるのは確実だ」とし、今後の日伯関係が中国の動きとも連動すると解説した。
大統領は二十八日、名古屋に移動し、ブラジル人コミュニティ代表らと懇談する。