6月2日(木)
プロ野球楽天の玉木重雄投手の出身地アチバイア市からまたひとり、日本スポーツ界を背負う活躍が期待されるスター候補が現われた。五輪で二大会連続メダルを獲得している日本女子ソフトボールの代表に選ばれた染谷美佳さん(21)。元ブラジル代表の経歴を持ち、五年前から日本で技術を磨いてきた技巧派右腕だ。代表入り発表を受け、五月七日付スポーツニッポン紙は「日本で羽ばたく情熱のブラジル娘」との見出しで半ページを割いて報道。北京五輪への秘密兵器として注目する。
頭角を現したのは今年一月のU―23代表によるニュージーランド遠征だった。日本五投手の中で最も多い十五回を投げ、失点はわずか一。この結果、日本ソフトボール協会は北京五輪に向けたテストを兼ね、〃隠し玉〃として代表入りを決めたと同紙は伝える。
染谷さんは十二歳でソフトボールを始め、十四歳で投手に。コレージオ・サンパウロ在学中の十六歳でブラジル代表に選出された。 転機は九九年、台湾で行なわれた世界ジュニア選手権。ブラジルチームと日本代表が同宿となり、日本がこの大会で世界一に輝いた。「すごい選手ばっかり。どうしても教えてもらいたくなった」。ホテルで出会った白鵬大足利高監督の名刺を頼りに、単身〃父母の故郷〃を訪ねる。
日本語の読み書きにも苦労した同高での留学生活を経て、〇二年から日本リーグ、デンソーに所属。日本とブラジル両方の国籍を持っており、国際ソフトボール連盟は国籍変更に関する厳しい条項を設けておらず、今回の代表入りに支障はなかった。
父・肇さんは戦後移住者。現在は日本で働いているが、母・光子さん、妹・智恵子さんはアチバイアで生活。もう一人の妹・由紀さんは染谷さんの背中を追って、白鵬大足利高ソフトボール部に在籍し、智恵子さんは現在ブラジル代表という珍しい三姉妹だ。
染谷さん一家を知る地元文協会長でブラジル野球連盟技術部員の辻修平さんは、「親子鷹でね。昔から父親が指導にも熱心でずいぶん影響を与えたんだと思う」。ブラジル代表に残ってもらいたかったというが、「あの娘のレベルまでいってしまうとしょうがない。いまのブラジル代表では五輪に出場することは難しいからね」と語る。
ブラジルのソフトボール競技人口はわずか。指導者も不足しているのが実情だ。変化球はおろか、正しい投球フォームすら教えてもらえなかった染谷さんは、「将来、ブラジルに戻って変化球の投げ方も教えてあげたい。でも、今は世界の強いチームと戦ってみたい」と意気込む。
本格的な指導を受けて五年で世界屈指の強豪国の代表に入った実力はまだ発展途上。抜群の制球力と外国勢に有効とされるドロップボール、そして単身で夢を実現させてきたタフな精神力は、北京五輪で悲願の金メダルを狙う日本代表の原動力となりそうだ。