2005年6月2日(木)
ロライマが産出する農作物のトップは米である。リオ・グランデ・デ・スール州からの移住者が同州における米作の主人公だが、二十年以上、同地での米作りに奮闘している唯一の日系人がいる。ボア・ヴィスタ市内に精米所を持つ市川ネルソンさん(52)だ。
パラナのウムアラーマ出身。「学校出てね、就職するのは嫌だったんだけどね」。七七年からロンドニア州の公務員として働きつつも、昔からの夢は忘れられなかった。
「ずっと憧れだったよね、ファゼンデイロ。トラトール乗って。でも、パラナじゃ無理だったから」。
ロライマの土地が安いことは知っていた。八〇年に州の農業技官として、同地に赴任することになる。
仕事の傍ら、土地を徐々に取得、二年後に米作を始めた。
「その時もガウーショが米をやってた。けど、全部陸稲だったから、僕は水稲を始めたの。荒地を耕地に変える政府のプロジェクトもあったしね」。新しいやり方でロライマの米作りに挑んだ。
「日本米をやったこともあるけど、ダメだったね。暑いからだろうけど」。ロライマでは気温が摂氏二十五度を下回ることは、ほぼない。市川さんによれば、農場では五十度になることもあるという。
「まあ、苦労して作っても、ここじゃ出来ても誰も買わなかっただろうけどね」と浅黒く焼けた顔をほころばせた。
所有する土地は一万ヘクタール。しかし、六割は地権がまだ取得できないため、植付けができない状態だという。
現在、千八百ヘクタールの水田で、年間一万二千トンの米を産出する。州内はもとより、アマゾナス、パラー、ロンドニア各州に供給。最近では、試験的にアマパー州にも輸出を始めた。
「この仕事をね、息子が継いでくれればいんだけどね」。後継者問題という農業者の悩みを市川さんも抱えるものの、「まだ学生だが、興味は持ってくれているようだ」と自然に顔が緩む。
「これからの夢は、牧場経営」。第三の人生に視点を定め、二千ヘクタールの土地を購入した。
「日本の領事が来てビックリしてたけどね。牛飼うのなら、そんなの小さいくらいだよね」。
市川さんによれば、自分で土地調査を行い、INCRA(国立植民農地改院)に申請すれば土地を所得できるのだという。地権取得に時間がかかる難点はあるが、ロライマには、地主のいない土地がまだ多く存在する。
「もちろん、昔ほど安くも簡単でもないし、いいところは取られてるけどね」。そのうえ、計測などの調査、造成や電線架設などの費用も安くはないというが、「まだまだ夢の叶う州」と市川さんは言う。
「二十年前、僕が来た頃、ここにいる人間は政府の金をあてにしている人ばっかり。でも今はみんな資金を持ってきて、何か始めようとしているよね。十年後には他の州みたいになるんじゃないかな?」。
市川さんはロライマの明るい将来を信じてやまない。 (堀江剛史記者)