6月8日(水)
ブラジルを美しくする会(玉根丈之代表)は五月二十五日午後八時から、ソーホー源気店(ドミンゴ・デ・モラエス街1425)で、恒例講演会を開いた。講師はリベルダーデ区で約三十年、本屋を営んできた高野書店の高野泰久店主。「本屋の片隅から見た日系社会そしてブラジル社会」と題された講演には、約三十人が参加した。
「こういう講演をするのは初めて」と頭をかく高野さんだが、多彩な話題と淡々とした語り口に約一時間、参加者は耳を傾けた。
現在、コロニアで話題を集める百周年事業に対し、「移民辞典を作ってはどうか」とのアイデアを披露。
「例えば『さんとす丸』のことが知りたかったら、数冊の本を紐解く必要がある。記念誌を作るより、利用価値があるのでは」と話した。
日本語教育にも言及、「これからもブラジル国内で、日本語学習者が増えると見られるなか、非常に残念」と「日本語ジャーナル」が今年三月、廃刊となったことを惜しんだ。
同誌は日本語教師などにも評判が高く、高野書店での売り上げも「文藝春秋」「少年マガジン」に続く人気雑誌だったという。
三十年続けてきた顧客の高齢化を話題に挙げ、「今日の健康」「壮快」など健康管理の雑誌の販売が増えていることも明かした。
最近、毎号三百冊を売り、高野書店で一番の人気雑誌「文藝春秋」の定期購読者の家族から、「(本人が)目が見えなくなった」ことを理由に購読中止の連絡があったという。
同誌の購読者には、地方購読者も多く、「八、九十代の老移民の方が多いのでは」と見る高野さん。
「最近、『認知症』と言い換えられている痴呆症にも読書がいい。(文藝春秋は)一冊三十六レアルだが、一日一レアルで痴呆の予防ができる」と参加者の笑いを誘った。
九十代を迎え、なお元気なポンペイアの西村農工学校校主の西村俊治さんや植物学者の橋本梧郎さんも同誌の愛読者だという。
他の人との出会いで、考え方や生き方が変わるとの考えから、同書店では、ピンガやタバコなども常備、「立ち読みでなく、座り読みして欲しい」という高野さん。椅子も数脚用意、客とのコミュニケーションも大事にしている。
講演で参加者から、本の価格についての質問に対しては、「サントスまでの船賃、サンパウロまでの運送代に利益を加算した値段」と説明。
円当たり、〇、〇五八レアルで換算しており、これは一ドルが三・八レアルの時につけたもの。「約四割が返本されるという日本の委託販売システムとは状況が違うことも理解してほしい」と呼びかけた。
なお、「月に二回掛け率を変えていたインフレ時代よりは安定している」としながらも、近年、輸入書籍に〇・九%の税金が掛けられている内情も明かした。
「コロニアの読者も多かった司馬遼太郎や池波正太郎など昭和の文豪の死は書店にとっても大きな打撃だった」と振り返り、現在、時代物では津本陽氏、推理物では西村京太郎氏の作品の人気が高いという。
今までで、一番売れた文芸本は、故開高健氏のアマゾン紀行ルポ「オーパ!」の三百冊。文中にブラジル産醤油「破天荒」がでてくることから、「オーパ!」購入者に醤油一本を提供したエピソードも披露した。
講演の後は、「ズブの素人が三十年やってきた」と謙遜する高野さんを囲み、和やかな雰囲気で立食パーティーが行われた。