天皇、皇后両陛下がサイパン島へ慰霊の旅に向かわれた。北マリアナ諸島に浮かぶサイパン島は激戦の地であり日本兵や島民の多くが犠牲になっている。日本人の死亡は五万五千人とされ何の罪もない九千人を超える島の人々も尊い命を奪われている。攻撃した米兵も三千五百人近くが戦死するというサイパンは悲劇の島と云っていい▼これまでにも両陛下は、沖縄や硫黄島を慰霊されているが、海外へ出掛けるのは初めてである。サイパンは第一次大戦後に日本の委任統治領となり、沖縄県人を中心にした移民が多くいたところで戦前の人々には懐かしい島である。近頃は若い人たちが、観光を目的にし年に五十万人ほど訪れているが、あの戦争の悲惨さをも忘れないでほしい▼皇后さまは、硫黄島をお訪ねになった折りに「慰霊地は今安らかに水たたふ如何(いか)ばかり君らは水を欲(ほ)りけむ」と詠まれたが、サイパン島で散った兵士らも渇きと飢えと闘いながら米兵との戦争であり、民間人や子供ら一万二千人が銃砲の犠牲になり「バンザイカリフ」から身を投じてもいる。天皇・皇后両陛下はこれら日本人だけではなく、島の住民や米兵などを含めた霊を慰めたいと願い―それがやっと実現したのである▼天皇陛下は現地で沖縄出身者や元兵士らと懇談し、あの激しく厳しい戦争を振り返ったが、嬉しいのは大きな損害を受けた島の人々が「天皇と皇后さまの訪問を心から歓迎している」ことだ。あの戦争から六十年―。それでも島の長老らは日本の委任統治の頃に学んだ日本語を巧みに操り「うれしい」と語っているのがいい。 (遯)
05/6/28