パラナ州カルロポリス在住の伊藤直さんがこのほど、厚い冊子二冊を発行した。『在伯六十六年、奥地開発を求めて、同志と共に辿った道』『吾が師吾が友の追想集』である▼伊藤さんは九十二歳。農業開発者、企業家、後進育成者、言論の人、とざっと挙げただけでもいくつかの「顔」がある。在伯足掛け六十七年の言動は、極めて多方面にわたり、人間一人が成し遂げてきたとは思えないほどである▼日系銀行の社員、邦字新聞創刊への参画(勝ち負け抗争中の敗戦認識運動)、農場経営、マ州の農牧畜開発会社設立に参加、ミナス州・ゴヤス州のセラード開発に参加、この間、いわゆる新来青年の受け入れ、日本におけるブラジルの有望性宣伝のための講演など、しばしば繰り返した▼巧まず日伯両国で広く豊かな人脈が形成された。二冊の冊子は、自身の事業はさておき、公共のために自分が日伯両国で何をしたか、何ができたか、そのときどきに応じての見解・意見・提案を記述したものが集められている。積み重ねが豊富でないと、こうはいかない。もちろん、他者が伊藤さんについて書いたものも含まれる。それも、伊藤さんの足跡だからだ▼ともあれ、早くから独立しないと、伊藤さんのようにはいかないと思う。サラリーマンでは、望むべくもない。九十二歳を迎え、またブラジルで六十六年間、文字どおり「活動」し続け、なお、悔いが残っている、何かやりたい、と構想していることがあるだろうか。興味がある。(神)
05/7/1