7月15日(金)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十日】サンパウロ市内のスラム街に巣喰う麻薬犯罪組織では少年の実働部隊が浸透し、もはや少年ら抜きでは組織の運営ができない程の勢力になっている。特に十二歳以下が対象となっている。この年齢は罪に問われることがなく、非行少年更生施設(フェベン)への収容も禁止されているからだ。少年らは親よりも多い給料で贅沢の限りを尽くして、勤務明けには麻薬を吸引するバラ色の人生を送っている。しかし一度、オキテを破ったり職務怠慢で組織に迷惑をかけた場合には、「死の報復」が待ち構えている。
組織にはスカウトがいて、彼は学校の正門付近で目を光らせ、これはと思う十二歳以下の少年に声をかける。そして近くのバールで清涼飲料水やサンドイッチを食べさせて、模型の飛行機(ピストルの意)を運ぶよう依頼する。もちろん仕事を終えると、びっくりする程のお駄賃が貰える。
スカウトは警察の目に止まらないように少年の運び屋を頻繁に変えるため、少年は順番が来るのを心待ちするようになる。スカウトは勤務ぶりを監視すると同時に家族構成や生活環境を調査し、見込みがあると判断すれば組織員として採用する。こうして採用されるのはまれで、通常は少年らが押しかけて採用試験を受けている。
警察の警戒が厳しいためサンパウロ市北部と東部で大量の需要があり、組織は六人に人の割合で採用している。残りは順番待ちとなる。スラム街全体が麻薬密売所と化しているとみられているジャルジン・エルバ区のスラム街では常時百人の順番待ちがいるという。
組織は企業体制と似ており、勤務時間は二交代制で午後十二時から十一時までとなっている。昇格すると一日六時間勤務となる。週休二日制、役割分担が決まっており、就労規定も確立されている。
麻薬や武器の運搬係は最年少が多く、パトロールの警官の通報を兼ねて週三百レアルの給料を貰っている。ほとんどが密売所の周りのバールで飲食したりゲーム機に打ち興じている。要所で見張りをする二人組は週五百レアル。銃の所持が許可され、警官やライバル組織員への発砲が認められている。銃を持つことが一つの自慢となっている。警官隊との撃ち合いで死亡するのはたいがいこの見張り番である。
警官の侵入を見逃した見張り番二人は翌日に惨殺死体で発見された。命乞いをすればする程、ゆっくり時間を掛け、苦しみを味合わせながら殺すのがオキテだという。その後、年期を積むと麻薬密売所の販売担当となり、給料は週八百から千二百レアルに上る。さらに一五%の歩合給が入る、ある一人はクリスマス前夜のみで一日六百レアルの歩合が入ったことがあると自慢げに話す。こうした勤務状況は上司が監視し、勤務評定が作成され、昇格につながる。
数カ所の密売所を取り仕切っている、いわゆる営業部長の右腕として活躍しているジョン少年(16)も校門で声を掛けられ昇格した一人だ。見張り番の時に警官との撃ち合いで、目の前で死亡した親友の名を名乗っている。十一歳でスカウトされたが、十歳から麻薬を常用していたので、抵抗なくむしろ喜んで加担したという。
将来は部長候補だが就任したくないと拒む。理由は部長職になると数多くの殺人に手を染め、死の宣告を命令しなければならないとし、これまで数え切れないほど人を殺してきたので、もうお断りだという。給料は週一二〇〇レアルだが簡単に手に入る金は出ていくのも早いとし、貯蓄はゼロだとのこと。大半の組織員がそうであるように、家族は遠くに住まわせ、組織のことは、うすうすは気づいているようだが口には出さないという。
十二歳以下の犯罪は野放し状態となっている。非行少年更生施設への収容は十二歳以上と法で定められている。この年齢以下で現行犯で補導された場合、州や市が援助している少年の家に収容されるが、強制権がないため、門戸は開き放しで出入りが自由となっている。収容された少年はシャワーを浴び、食事を取った後、教育官に説諭されて解放される。関係筋では非行少年に限らず、家族ぐるみでの非行防止対策が急務だと指摘している。