7月20日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙三日】タッソ・ジェレサッチ上議(ブラジル社会民主党=PSDB)は、ブラジル民主化のリーダー故ウリセス・ギマランエス氏が「民主化の原動力は、唾液と時間だ」と喝破したことを述懐した。労働者党(PT)政権の誕生は、民主化運動の熟成を意味すると同上議は見ている。PT政権はPT理論が正しいなら、雇用を創出し所得の増加をもたらす義務がある。それが出来ないのは、PT理論が間違っているからだという。
ルーラ大統領は再教育する必要があると、同上議は次のように述べた。歴史上の大先輩からの助言によれば、政党政治は帝政以来の歴史があるのに基盤は脆いものだという。ブラジルの政治は、強力な心棒を中心に政府がその周囲を回転する。中心が揺らぐと全体が揺らぎ、政治危機が起きる。
同上議は連邦令を草案した上議十人の一人で、サルネイ上議から枢機卿の称号を貰った。十人は国難に対処できる知識人とみられている。しかしルーラ大統領は、この十人の誰にも教えを乞うたことはない。
ジェフェルソン・ブラジル労働党(PTB)党首は一月、大統領に裏金配布の重大性を警告した。しかし大統領は聞く耳を持たなかった。大統領は少数の側近に意見を打診するが、連立与党は政策決定にはツンボ桟敷にいる。
同上議が憂慮するのは、議会調査委員会(CPI)が設置されると、問題を郵便局にとどめて飛び火を避けるというのは不可能なことだ。CPIの調査が進行するに従って関連事項にも広がり、調査は思わぬ方向へ展開する。全省庁から公社、公共団体へ捜査の手は波及する。
毎週のように新告発が出てくるが、一人の人物がどれにも関与している。それは背後で中央司令部が中心となって指令しているからだ。司令部では汚職システム立案の専門家が指揮を採っている。郵便局だけの問題なら、一カ月で事は済んでいたはずだ。
これは法律上の問題ではない。野党や国民、マスコミが要求しているのは、真相を解明し、責任者を処罰することだ。単なる政治改革に終わらせたくない。このジレンマの原因は、大統領が隠れた少数勢力に囲まれ、完全な自由がないからだと同上議はみている。
この勢力はボルシェビキストで、無謀な外交政策を大統領に強要した。ブラジルの常任理事国入りも、その一つと思われる。ブラジルの政治力や経済力では、常任理入りは夢だ。途上国連合のG20も、茶番劇である。
とてつもない中国市場への参入という課題も身分不相応。対亜経済摩擦、対米不信など、国連の常任理入りするような経済状態でないのに背伸びさせられたのだ。ハイチ派兵は経済的に行き詰まっている。外交政策を制しきれないでいる。
ブラジル民主運動党(PMDB)との連立強化が引き起こす問題を大統領は分かっていない。ボロが出るにはまだ時間がかかる。連立強化による作戦は二つ考えられる。一つは問題の原因が前政権にあると責任転嫁すること。二つ目は階級闘争の旗を揚げ対決することだ。
経済にかげりが見えてきた。目を見張る経済の好況という幻想を、国民に宣伝したのだ。国際経済の成長率が四%というときに、ブラジルは二%から三%だという。国際競争から脱落しているのだ。まだ政治危機が経済に影響を及ぼしていない時点で、この調子なのだ。政治危機が収拾できなければ、誰がブラジルに投資するのか。雇用創出はどうなるのか。
同上議が、ルーラ大統領の誕生は歴史的事実だと認めている。北東部の下層階級出身の人物が国家元首に上りつめたことで、民主政治が熟した証を世界に示威できるという。しかし、PT理論の現実性と具体性を証明する必要がある。次期大統領選をことば遊びにしてはならない。