2005年7月21日(木)
【既報関連】「本人は返したと思い込んでいたようです。結果として、取材者としての信頼関係を裏切る行為だった。(資料を貸した)お二人には本人から謝罪しました」。二十日午前九時過ぎ、日本のNHK経営広報部の久保智司さんから事情を説明する電話があった。「事実確認した結果、本人が保管していた資料箱から十六ミリフィルムが見つかりました」。九七年九月に放送された植物学者の橋本梧郎さん(92、サンパウロ市)を描くドキュメンタリー番組「アマゾンの果てまでも」の撮影に訪れたNHKのスタッフが貴重な資料を借り出したまま、数度の返還要請にも関わらず八年間も返していなかった件に関して、橋本さんは半ばあきれ気味に「まあ、よかった」と語った。
本紙が報じた翌日十六日、橋本さんのもとに借りた本人から電話連絡があった。橋本さんが資料返還を求めると、「返していませんか?」と回答。半時間にわたる会話の中で「一言の謝罪の言葉すらなかった」と苦笑いする。
本紙が十九日に取材した時、橋本さんは「自分のは、もう半分あきらめている。ただ松山さんの十六ミリフィルムだけは返してほしい」と消沈した様子で語っていた。
放送翌年の九八年に、橋本氏は電話で請求したが、同じような対応だった。事情を聞いた日本在住のフリージャーナリストがNHKに直談判し、ようやく写真や日記の一部が返却された経緯がある。
フィルムの所有者、パラナ州グアイラ市在住の松山芳子さん(77)のもとには本人から十八日に電話が入った。八年ぶりの連絡だった。十九日に本紙が経過を問い合わせたところ、「『誰がどこに置いたか分からない』って言われるしね……、気を使わせては悪いし、もう諦めました」と語った。
松山さんは私設の博物館を作るべく、同地での日本人入植の歴史や、動植物の調査に長年尽力してきた。そのフィルムには、昔のコーヒー園の様子、五〇年代の日本人会の運動会、ダムで水没したセッテ・ケーダス(七つの滝)なども撮影されており、貴重な資料であることは間違いない。
博物館の目玉展示にしようと思っていたが、件のNHKスタッフからの「ビデオにダビングして日本から送り返します」との約束を信用し、貸し出したが、以来八年もなしのつぶてだった。
「大事なものじゃないと思うけど、こっちにしてみれば思い出。『ビデオ送った』って電話では言われたけど、こちらには届いていない。住所を間違ったのかも知れないね」。
最近、長年の夢が実現へ向け大きく動きした。「市から不動産の提供を受け、展示品の陳列をようやく始めることになりました」。長年の夢を叶え、嬉しそうに語る松山さん。今年暮れに、開館する予定だ。
二十日朝、同経営広報部の久保さんから電話があり、開口一番「連絡が遅れて大変申し訳ない」。関係者に連絡をとり事実関係を確認したところ、「本人が保管している資料箱から十六ミリフィルムが見つかった」とのいう。中身を確認し、ビデオテープにダビングの上、フィルムと共に松山さんへ送り返す予定。
久保さんは「ご迷惑をお掛けしたのですから、最大の誠意をもって対応するのは当然のこと」という。残りの資料に関しては、「現在、残りの資料を洗い直しており、見つかったものはその都度、本人から橋本さんに報告します」。
続けて、「本人は全て返却していたと思い込んでいたようです。今回の記事で改めて調べみたら、資料箱から出てきたようです」と説明する。
二十日朝、本人から橋本さんに電話が入り、「すみません」と謝罪したという。「フィルムが見つかったって言ってました。しかも、二つもあったって」とあきれた様子。「全部まとめて一箱に入れておいたと言っていたけど、フィルムが見つかって僕の本が出てこないのは、ちょっと、どうかね」。
八年越しの謝罪の言葉を受け、「まあ、良かった。もう矛をおさめてもいいよ」と語った。