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大統領はすべて知っていた=歴史学者ソアレス氏=政治史が裏付け=本音で選挙を戦ったことも=「半帝政」の大統領制

2005年7月27日(水)

 【エスタード・デ・サンパウロ紙十日】「大統領は全てを知っていた」と政治史が専門の歴史学者、マリア・C・ソアレス氏がいう。ブラジル史を学べば、大統領が知らないで政治を執ったなんてことはあり得ないという。大統領に知られないよう、密かにことを進めたことはある。大統領に危害が及ばないよう、周囲を固めたこともある。しかし、何が起きたか分からないようツンボ桟敷に置いても大統領は分かる。それが分からないでは、大統領は務まらないとした。
 ルーラ大統領は、庶民の代表や経済使節団の団長として卓越した才能を持っているが、この才能は政治能力と異なる。大統領選の台所事情もよく知っていた。選挙裁判所には建前を報告し、選挙は本音で戦ったことも知っている。
 ジェフェルソン下議の告発で、いままで建前で済んでいたことが済まなくなったのだ。ブラジルの大統領制の特徴は半帝政で、大統領が立法府と司法府の上にも君臨し、外国の三権分立とは事情が違う。
 帝政では皇帝が全ての権限を掌握していた。共和制に移行すると、皇帝の場所に大統領が入れ替わったのだ。大統領は国家元首で、国家の代表である。道路の穴や銀行の行列、子供が街路でサッカーをすることなどブラジル文化全てが大統領の責任なのだ。
 政治が国民のレベルで行われるとは誰も考えない。政治家が一生懸命に公金横領に精を出すと、国民は大統領の怠慢だと考える。ヴァルガス元大統領やグラール元大統領には連日、手紙の山が配達された。内容は就職依頼や借金の依頼で、大統領とはスーパーマンだと思われた。
 大統領が国の大事から小事全部を管理できるわけがない。一〇〇%知らないともいえるし、九九%知っているともいえる。ヴァルガス前大統領とガイゼル前大統領はメモ魔でよく物事を知っていたほうだが、大統領に代わってよく管理する側近らを抱えていた。
 クビチェック前大統領はメモをしなかった。落成式が大好きで、泥靴を履いて現場を歩くのが趣味だった。メジシ前大統領は、国家情報局やCIAなどの報告を好んだ。サッカー選手についても詳しかった。
 ジャニオ・クアドロス前大統領は、クビチェック前大統領とは対照的に一人で全てを抱え込み、暫定令を乱発した。同大統領は辞任が議会から拒絶され、混乱が起きると計算していた。混乱収拾を引き換えに、権限拡大を図ったが失敗した。権力掌握の失敗が辞任理由で、影の勢力による圧力は狂言とみられている。
 メジシ政権のアブレウ官房長官は鉄の管理体制を敷いたというが、何も政策決定はしていない。ガイゼル政権のゴルベリ官房長官は、側近としては理想的であったが、マスコミが騒いだほど優秀ではなかった。官房長官としてはジルセウ氏が、三人の中で最も有能であったと思われる。
 労働者党(PT)政権は権力欲が旺盛だったが、私腹を肥やした者はPTの中にいない。巧言を以ってPTに接近した人間に腹黒い人物がいたようだ。ブラジル民主運動党(PMDB)との連立強化で政局挽回を考えているようだが、あまり成果は期待できそうにない。