原爆の悲劇を描く「黒い雨」は井伏鱒二の名作だが、核爆弾が爆発すると大気から放射能だらけの黒い雨が実際に降るという。8月6日午前8時15分。広島の空に一発の原爆が投下され7万人近い市民が一瞬のうちに死へと追いやられ、9日には長崎で3万数千人が犠牲となる。あの魔の日から60年。これまでに23万人を超す人々が死亡した▼原民喜は被爆体験を短編「夏の花」で「突然、私の頭上に一撃が加えられ、目の前に暗闇がすべり落ちた。私は思わずうわあと喚き、頭に手をやって立ち上がった。嵐のようなものの墜落する音のほかは真っ暗でなにもわからない」と書く。原は原爆が落ちたときにトイレにいて一命を取り留めたのだが、昭和26年に東京の中央線で鉄道自殺している▼核兵器の怖さと重圧に堪えかねたのだろうが、今もなお療養に明け暮れる人は多い。こうした不幸な人々を支援し医療の手助けも行っているのだけれども、ブラジルやアメリカに移り住んだ原爆被災者への救済は必ずしも十分とは云えない。在外被爆者は5000人と推定されており、ブラジルには約150人いる。彼らは厚労省に国内被爆者と同じ扱いにと頼んでいるのだが、実現は難しいらしい▼こうした暗い面もあるけれども、核兵器を廃絶しようの国際的な動きは活発化している。今年は被爆60周年でもあり、この国の有力紙とテレビも広島と長崎を取材し庶民への訴えを強くしているのは喜ばしい。こんな市民の声と運動は必ずや実を結ぶ。 (遯)
05/08/06