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自然「破壊」から「保護」へ――戦後移民・辻さんの価値ある転身――〃原始生活〃したいなら=アマゾン本流沿いのホテルはいかが=日本から直行して来る人も

2005年9月6日(火)

 マナウス市の下流三十数キロでリバーサイドホテルを営む辻卦佳治さん(59)。自然破壊の農牧から自然保護のホテル経営に仕事を切り替えた人だ。ここにわざわざ不便なジャングル生活を楽しむために、日本から直行して来る人もいる。そんな人には「ほかのブラジル」は眼中にないようだ。
 グエッグエッグエッ、ツィーツィー、ピヨピヨピヨ、トゥイトゥイ――。アマゾンの朝は意外とにぎやかだ。
 朝六時、まだ〃水平線〃から朝日はのぼっていないがだいぶ明るい。風のない川面は墨を流したように真っ黒で、湖面のように静かだった。遠くで船のエンジン音がボンボンボンボンと響く。漁師だろうか。
 八月末、アマゾン川本流に位置するリバーサイドホテルは意外と涼しい。マナウスから下流に三十三キロほどの地点だ。
 経営担当の戦後移民、辻佳治さん(54)は「日本語がこれだけ通じるのはここだけ」とアピール。ボートでないと行き来できないので、共同経営するATS旅行社などで申し込み、黒いネグロ川と白っぽいソロモンエス川の壮大な合流点、ピラニアやなまず釣り、カボクロの家見学、ジャングル・トレッキングなど、ガイド込みのパッケージツアーとなる。
 増水期のみのツアー「水没林巡り」では実に幻想的な風景が堪能できる。川岸の木々が梢まで水没し、水面に森がそのまま映し出される。年間を通して十メートル以上の水位差があるアマゾン川ならではのものだ。でも、日本からの客には、減水期に来て「だまされた」と怒る人もいるとか。
 さらに、「インターネットができない」「二十四時間いつでもシャワーを使いたい」「もっと豪華な料理を食べたい」などとならべる人もいるとか。アマゾンに来てまで〃文明〃がないとダメらしい。
 おかげで、二〇〇二年に落成し、最初は数時間しか電気が使えなかったが、現在では一日使えるようになった。それでもシャワーは夕方の一時間のみだ。不便なジャングル生活を〃楽しむ〃心がまえが必要。
 従業員によれば、日本からわざわざ直接このホテルへ来て二泊し、そのまま日本へ帰った客までいた。
 辻さんは一九五三年、戦後移住最初の年に、二歳で親に連れられてきた。ゴムを中心に家族で十年ほどべラビスタ植民地でふんばったが「全部失敗に終わった」という。
 六七年に五十羽から養鶏を始め、八五年ごろには三万五千羽に増やした。その後は、二千五百ヘクタールの土地も買い、千五百頭の肉牛の飼育も手がけた。この十年ぐらいはホテルや食料品店経営に乗りかえた。IBAMAなど環境関連の取締りが厳しくなり、農業から撤退した。
 「今はワニが可愛くてしかたないんですよ」。六カ月まえに自分で孵化させた子ワニを指の股にはさんで遊ぶ。
 「牧場では雑草一本でも徹底して抜かせたが、ここでは一本の木の切るのにボクの許可が必要」と振り返り、「自然破壊から保護にかえました」とアマゾン川のほとりで笑った。