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上層階級の年金に消える=社会保障制度が座礁=教育の恩恵さらわれた貧困層=小中学校教師の待遇改善を

2005年9月14日(水)

 【ヴェージャ誌一九二〇号】カリフォルニア大学のピーター・リンダート教授が、ブラジルの社会福祉政策を診断するために来伯した。一口にブラジルの患部を指摘するなら、全国民から徴収した厚生年金掛け金が、軍人や裁判官など上層階級の年金に偏って使われていること。先進国に劣らない社会資本を社会福祉事業に投じ、若い労働者に満ちているのに、悪循環のため所得格差の是正に役立っていないと批評した。これを反ロビン・フッド現象というのだそうだ。
 以下は同氏との一問一答。
 【ブラジルは国内総生産(GDP)の二五%を社会整備に投じたのに、なぜ貧困層が益々増えるのか】社会資本の多くが上層階級の年金に消えているから。特に定年退職した軍人と裁判官の年金が、社会福祉制度を座礁させている。この問題はブラジルばかりでなく、他の中南米諸国やインドにもある。下層民からも負担金を徴収し、教育で恩恵を受けるのは上層階級だけという仕組みなのだ。
 【ブラジル国民の高齢化と社会保障制度の改革は?】先進国に比較したら、ブラジルは若者が多いのに、社会保障制度の座礁が指摘されるのは不可解である。問題は制度の不備にある。GDPの一定率を一定分野へ投下すること。予算連動制にし、政治的圧力で変更しないことが肝要である。
 【途上国が一定率を一定分野へ投下するのは可能か】二〇〇二年に予算連動制が制定される前のブラジルは教育にほとんど関心がなく、社会資本は特権階級の年金に消えた。韓国や台湾など日本の旧植民地は同時期、年金への支出を最小限に抑え、教育へ投資をした。全ての国が日本の制度を取り入れるのは、それぞれの事情と伝統があるから困難だ。
 【左派政党と社会資本は、いかに連携したか】EU諸国では、社会資本の重視は左派政党のおハコだった。ブラジルの左派政党は医療で下層階級を優先したが、教育では上層階級に恩恵をさらわれた。だからブラジルの左派政党は社会資本で、どんな役割を演じたのか判然としない。
 【下層階級は、教育で社会的に向上するか】下層階級が社会的に向上するための奨学制度だが、保護者が子弟を学校へ通わせているか。教育を受けた子弟が、どのように社会貢献をしているか監査する必要がある。適材適所の制度導入や英才教育をしても、監査が杜撰だと計画倒れになる。有効な奨学金の管理が同制度の鍵といえる。
 【上層階級から特別高額のぜい沢税を徴収するべきではないか】酒や煙草、ガソリンなどぜい沢品への課税で、ある程度の格差は是正されている。一律のぜい沢税制度は、投資意欲を減退させ経済成長を妨げる。
 【上層階級だけが、恩恵を独占しないためには】ブラジルは汚職や公金横領を阻止する法整備を行えば、上層階級だけが恩恵を受ける社会制度システムは回避できる。インドの階級制度や米国の人種差別は、法整備などではどうともならない深刻な問題である。
 【強化すべき福祉分野は?】所得格差の是正と経済発展に貢献する分野を強化すること。公務員給与や元公務員の年金を縮小して、教育と保健への投資を増やすことを勧める。特に小中学校教師の待遇改善が必要。保健では地方在住者の予防治療が必要だ。児童の教育と健康が社会福祉の基本である。
 【社会福祉活動が、ブラジルの将来へ及ぼす影響は?】ブラジルは内戦中の国々と較べたら、社会的に非常に恵まれている。ブラジルは将来有望な国として中国などから注視され、政治形態や民主精神、公共団体など途上国に対する模範となることがたくさんある。社会福祉の面でブラジルは、東南アジア諸国より先進国である。