二天武道研究所の招請で来伯、三週間にわたってブラジル人古武道愛好者を指導した杖道の達人の話を聴いた。神道夢想流杖道免許皆伝の神之田常盛さんは、七十八歳ながら、武道に青年のような情熱を持っていた。警視庁を定年退職後、日本杖道会の会長をつとめる▼二天武研の会員たちは、非日系人が圧倒的に多く、ほとんどが高学歴で、特に古武道の神秘性に興味を持ち、日々研鑽を積んでいる。神之田さんは、今回、取り立てて言うほどのこともないが、と言いながらも教え諭した。「武道は人間形成に役立つから、続けよ」。「武道は心の護身術。心の修行法」。武道を通して、礼法、作法を、自分のものにすればいい、と説く▼警視庁勤務四十年なので、「恐い」面も見せた。警察官が武道で自身を鍛えるのは、凶悪犯に対してひるまない体力、気力、精神力を養うためだ、と言ったときは、まわりの空気がぴりぴり張り詰めたようだった▼日本の古武道の流派は、戦前二百五十ほどあったが、現在はわずか二十五を数えるだけだそうだ。時代が消したのである。「神道夢想流」と聞き、何か別世界を連想するのは古い人間なのかもしれない。木剣や杖を振る若者が減って、ニートが増える時代だから▼神之田さんの杖、居合、剣の型を実地で学んだブラジル人の青壮年層が、型の理解だけでなく、礼法、作法を身に付け、自身を変革することが期待できる。広がりができ、モラル、治安の改善に役立てば、なおすばらしい。(神)
05/09/14