2005年9月16日(金)
現在、ボリビア・ラパスで実施されている「母子保険に焦点を当てた地域保険ネットワーク強化プロジェクト(FORSA)」は、母子一次保険サービスでの現状改善を目的とした国際協力機構(JICA)のプロジクトだ。出産ケア向上に取組む専門家たちを取材するとともに、JICAが九六年から五年にわたり、ブラジル・フォルタレーザで実施した「光のプロジェクト」対象地区で今年研修を受けたボリビア人医師二人に成果を聞いた。
ボリビアの首都、ラパス市(憲法上の首都はスクレ)は、国内最大の都市で、標高三千六百メートルの高原地帯にある。
国民の約半数はアイマラ族を主とした先住民族(インディヘナ)が占める。高層ビルが立ち並ぶなか、民族衣装に身を包み、山高帽でうつむき気味に坂を歩くアイマラの女性。市街を見下ろすアンデスの峯に氷河が白く輝く。
バスや車のクラクションが鳴り響く市内の目抜き通り、マリスカル・サンタクルス大通りに面する同市人間開発局保険課内にFORSAのプロジェクトオフィスはある。
〇四年一月から〇五年末まで、同プロジェクトのチーフアドバイザーを務めるのは、田中幸恵(40)さん。
同国第二の都市、サンタ・クルス市のHospital General de Santa Cruz(通称・日本病院)で助産婦として働いた経験もあり、ボリビアの出産事情を熟知するベテランだ。
「parto umanizada(人間的出産)という言葉が近年よく使われていますが、方法論が先行している」と現状を指摘、本質そのままの言葉『女性と赤ちゃんを尊重したケアを!』をモットーに活動を進めている。
現在、ボリビア政府は保健セクターの改革に伴い、母子保健指数の向上に力を入れているが、妊産婦の死亡率は十万人につき三百九十人(ちなみに日本は六人)。中南米ワースト2という高さである。
乳児(一歳未満)死亡率は五十九人/千人(日本は三人以下)、新生児死亡率(出産後二八日以内)は三十五人といずれも高い。
その理由として、短期専門家としてプロジェクトに関わる毛利多恵子さん(48)は、周産期(出産、産後)のケアのレベルの低さを挙げる。
「(病院などでは)出産直前まで一人で過ごさせるようなほったらかしの状態」。出産体験が「痛くて苦しいだけ」といったトラウマになる例もあるという。
毛利専門家は「(産婦に)心理的負担がかかると異常に傾きやすい」と説明、産中のケア改善の必要性を強調する。もちろん、医師、家族側の意識の改革、そしてEBM(証拠に基づいた医療)が必要だ。
ラパス市で報告される出産の半数は家庭で行われる。家族以外に体を見せることに対する拒絶感、劣悪な交通事情のほかに〃暴力的〃とさえ言われる病院での非人間的扱いもその大きな理由とされる。
ボリビアでは病院での出産は百%仰臥位。このような体勢での出産は先住民族にとっては、非常に屈辱的でさえあるという。
「人間的ではない、お産の文化が死亡率の高さに繋がる」(毛利専門家)。
九六年、WHOが出した「お産のケア実践ガイド」のスペイン語版「Atencion del parto normal」をプロジェクト準備段階の〇三年に作成、七百部をラパス市の保険センターの職員や保険行政に携わる人を中心に配布するなどの啓蒙活動も事前に行っている。 (堀江剛史記者)