2005年9月27日(火)
勝ち負け紛争の本当の姿など、コロニアの裏面を余すところなく書いたといわれる幻の原稿『コロニア太平記』が見つかるのではと期待されている、故内山勝男サンパウロ新聞編集主幹が残した秘蔵の「内山資料」――。ダンボール箱にして約四十個分もの寄贈を受け、内容を確認して分類し、公開にむけて準備を進めているサンパウロ人文科学研究所によれば、今のところそれらしいものはない。しかし、すでに幾つか貴重なものを見つけている。
その一つは、成瀬書店から一九七四年に出版された豪華限定本『蒼氓』(そうぼう、石川達三著)だ。三百冊限定で、三十年まえに定価二万円もした。肉筆署名と落款入りで、二百十九という番号も書かれている。
同作品は三部作で、第一部が第一回(一九三五年)芥川賞を受賞しており、第二部「南海航路」、第三部「声無き民」と続く。発見された本には全部収録されている。
内山しずえ未亡人に確認したところ、「石川さんと内山は同船者で、個人的にも親しかった。だから本人から直接寄贈されたものです」という。
サンパウロ新聞文学賞の審査員を引き受けてもらうため、東京田園調布の同氏の自宅を訪ねたことのある鈴木正威人文研理事は、「快く引き受けてもらいました。大柄な体で、落ち着いてゆったりした雰囲気。低い声でトツトツと話をする感じでした」と思い起こす。
その第一回文学賞のときの編集長が内山さんで、入選したのが醍醐麻沙夫さんの『森の夢』だった。
この内山資料からはほかに、「ニセ宮」として有名な加藤拓治、美空ひばり、大日向伝など著名人の生写真もぞくぞくと出てきた。
ただし、肝心の『コロニア太平記』は見つかっていない。内山さんの友人、ベロ・オリゾンテ在住の渋谷信之さんによれば、「内山さんには『コロニア太平記』という原稿があり、日本で出版しようと出版社に持ち込んだが『日本の読者には向いてない』との理由で断られ、代わりにホテルで缶詰めになって書いたのが『伯剌西爾ラプソディー』(PMC出版、一九九三年)だと聞いてます」という。
鈴木理事は「まだ開けてないダンボールが三箱ほどある。その中にあるかも」という。宮尾進元所長も「今後の調査しだいでまだまだ興味深いものがみつかるかもしれない」と望みをつないでいる。
ただし、しずえ未亡人は「あれは渋谷さんの勘違いではないでしょうか」とする。というのも『伯剌西爾ラプソディー』執筆時、未亡人は内山さんと共に日本にいた。「パパイは『太平記』として書いたが、編集者に名前を変えたほうがいいといわれて『ラプソディー』にしただけ。中身はそのままだった」という。
ともあれ、まだまだ秘蔵資料が発掘される可能性は残されている。