2005年9月30日(金)
【エスタード・デ・サンパウロ紙二十五日】パラー州ゴイアネージア市(州都ベレン市から南西に三六〇キロ)の中心街が一夜にしてゴーストタウンと化した。人口二万九千人の町の市庁を始めとする公共機関九カ所が全て略奪と破壊の憂き目に遭い、果ては焼打ちされた。市長など有力者らの邸宅および十八台の公用車、市営バスもことごとく焼打ちの対象となった。一夜明けた十八日、灰や埃が飛び交う舗装されていない中心通りは応援に駆けつけた軍警のジープが走り回るのみだった。市街はこれまでの市当局の腐敗と警察の無能さに「限界に達した」市民らが暴徒化したもの。今年に入り十五件を記録したレイプ(強姦)事件の取締りや捜査を怠った警察への怒りが発端となった。
五歳の男の子が同じ歳の女の子に「お前をレイプする」と追っ掛けるレイプごっこの遊びがこの町では定番となってしまった。また女、子供に対するおどし文句もこれまでの狼やお化けから「レイプ犯が来るぞ」に変わった。今年に入り連続発生した十五件のレイプ事件の中でも、市民にショックを与えたのが十日に発生した事件だ。
勤務帰りの秘書嬢(24)が自宅付近の空き地に連れ込まれレイプされた。犯人は逃走の際ピストル弾を女性の性器に撃ち込んだ。女性は痛みに耐え、這いながら自宅に戻ってメモ帳に「犯人は抵抗した際につけた引っかき傷や噛みついた傷が体中にある。捕まえてっ!」と書き残して息絶えた。しかし警察は多忙を理由に動かなかった。警察署には市警五人と軍警六人が配置されているが、市民はこれまで一度も問題解決に至ったことはないと不満をあらわにしていた。
この秘書嬢の事件の数日前に母娘三人が同じ現場付近で襲われている。三人は川に魚を釣りに行った所を背後からこん棒のようなもので、メッタ打ちにされた。五十八歳の母親は右腕を打撲、三十六歳の姉は頭部に裂傷を負った。二十歳の妹は顔を殴られてレイプされた。被害者らは警察で犯人の顔の特徴などを説明したが、警察はモンタージュ写真を作成する訳でもなく被害届の受付料を要求したにとどまった。
無気力さに限らず、警察の暴力も問題視されてきた。二十歳のカウボーイとあだ名された男性は商売上のトラブルでケンカになり、駆けつけた警官に手錠を掛けられたが大声をあげたため群衆の目前で射殺された。警察は抵抗したための正当防衛だったと片付けてしまった。
これらの不満が十七日に爆発した。この日は恒例の教会の慰霊祭だった。近隣都市からも参加し一万人のパレードとなる。その後で市民らはバールで一杯やるのが楽しみの一つとなっている。この日も二千人余りが市内のバールに集まっていた。そこへ五日前に誘拐された五歳の女の子と見られる焼死体が発見されたとのニュースが舞い込んだ。女の子は従妹二人と庭で遊んでいたが、黒人の男に連れ去られたという。警察では誘拐事件として取り上げなかった。
このニュースを聞いた市民らは怒り心頭に発した。酒に酔った勢いもあり、警察署を襲撃、建物を全壊させた。さらに市庁や公共機関を襲い、目ぼしい物を略奪した上で焼き打ちした。市民らは、「市は一メートルの舗装をもせず、上下水道もないくせに市長をはじめ有力者らは毎年、農場を買い増し、新しい自家用車を買ったりして私腹を肥やしている」と怒りをぶちまける。この焼き打ちで市庁内の書類や、裁判所の記録など全て灰となったため、市当局は市の機能を果たせないと途方に暮れている。 現在市内には応援に駈けつけた市警五十人と軍警八十人が暴徒らの検挙に当たっている。これまでに十二人が逮捕された。市民らは検挙されて拷問を受けるのを怖れ、略奪品を路上に棄て始めたため街路は品物の山となっている。