2005年10月21日(金)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十六、十七日】マット・グロッソ・ド・スル州で発生した肉牛の口蹄疫は第一発見場所の近隣の町でも確認され、さらに広まる勢いを見せている。これによりこれまで五市を厳戒体制に指定し封鎖してきたが、さらに二市を追加して人や動物の出入りを禁止している。ヨーロッパ諸国やロシアなどがブラジル産牛肉の輸入を禁止したことで輸出業界が大打撃を被ることは必至だ。口蹄疫が発生した地域では市民の半数以上が牛の飼育に関わっており、経済活動の停滞で生活に支障をきたし、果ては失業の不安にかられ、死活問題にまで発展している。
口蹄疫が最初に確認されたのは同州エルドラード市内のヴェゾーゾ牧場で、感染した百四十頭を含む、飼育されていた五百八十二頭は全てと殺されて土中に埋められた。これを受けて政府は検疫官百人を現地に派遣し、同市を中心とした範囲二十五キロに及ぶ近隣五市を厳戒地区に指定し、飼育牛の検査と人や動物の往来を禁止した。
口蹄疫は動物を媒体として伝染し、人体の衣服などに付着した病原菌からも感染する。検査官らはエルドラード市に隣接するジャポラン市の五つの牧場で口蹄疫の症状が出ている二百七十頭を発見、感染が確認された場合、牧場内で飼育されている肉牛すべてがと殺され、廃棄処分となる。
これにともない政府は厳戒地区を、セッテ・ケーダス市とタクル市にも広げた。この七市で計六十五万八千八百頭の肉牛が飼育されており、同じ牧場内で一頭でも感染すると全てが処分の対象となることから、状況次第では全滅の危険性さえある。
エルドラード市では、ほかの牧場で新たに八頭の感染が確認され、これにより飼育されている三百頭が処分される。同市は人口一万一千六十六人で半数以上が畜産に携わっている。普段は牛の運搬トラックが市中を走り回り活気にあふれていたが、厳戒下に入り、牛肉の販売が禁止されてからは死の町の様相を呈している。
市内の三つの製肉工場は早くもレイオフを宣言、二千人の従業員全員に集団休暇が通告された。このほか四千人が間接的に職を失った。また牛肉とともに、ミルクあるいは乳製品の販売も禁止されたため、多くの零細農家は乳しぼりが出来ず、日常の食糧にも事欠いている。
経済が停止したことで市の毎月十八万レアルに上る税収も宙に浮き、市当局では困惑している。同市では今年五月に麻薬組織が摘発されて市の有力者や警官ら三百人が一斉検挙された経緯があり、市長はせっかく悪夢を忘れかけていたのに「新たな悪夢が始まった」と頭を抱えている。
感染した牛の血液検査の結果が一両日中に判明するが、感染の責任のなすり合いが表面化している。ルーラ大統領が「政府に落ち度はなく飼育農家の管理に責任がある」と公言したのを皮切りに、農務省は予算の交付の遅れで防疫が不完全だとの態度を示し、被害にあった市当局者らはパラグアイの密輸牛が原因だと指摘している。パラグアイ側はこれに反発している。
また一部ではボリビア感染説を唱えるのもある。ボリビアは予防接種を義務づけていないのがその理由。いっぽうでジャポラン市にキャンプを張って生活している農地占拠運動(MST)や不法侵入しているインディオが連れ歩いている牛が感染源だとの諸説が出ている。
厳戒地区では衛生管理と交通事故防止のため国道付近に出現する牛に対して銃殺許可が出ている。エルドラード市の国道一六三号線で三頭の牛が連邦道路警官に射殺された。これを目撃したMSTのメンバーが、検査官が到着する前に解体して肉を持ち去り、キャンプ内でシュラスコをして食べてしまった。牛の持ち主は柵が外れて外に出たものだが、解体された牛は頭と内臓を残したのみで、「高価な皮まで持ち去った」と憤慨している。