2005年12月14日(水)
【ヴェージャ誌一九三四号】奇跡の経済成長を遂げる国々がある一方で、ブラジルが同じことをできない理由が五つあるとマッキンゼイ研究所が発表した。しかし、国民がその気になればハードルは下げられるという。各国の能率を百メートル競争に例えるなら、米国を百としてブラジルは十八メートル地点にある。ブラジルのハードルは、アングラ経済と不十分なマクロ政策、時代遅れの法整備、欠陥インフラ、非能率的な教育と保健行政の五つとしている。この五つが除去されれば、七十メートル地点に達するとした。
ちなみに韓国が三十九、チリが二十八、メキシコが二十七、中国が十、インドが六メートルという。米国以上の国は除く。ブラジルは生産性が高いのに、なぜ途上国の中で経済成長率が低いのか。ブラジル国民の生活水準を引き上げるにはどうするべきか。
この煩悶は八〇年代から繰り返されたが、妙案がない。ブラジル地理統計院(IBGE)が、第3・四半期の経済成長率を前期比マイナス一・二%と発表し国民に衝撃を与えた。この発表は四半期八回の連続成長に歯止めを掛けたからだ。だが一つだけ妙薬がある。
マイナス成長の原因は、明白だ。高金利政策と為替政策の不在、公共事業への投資縮小である。金利と為替はいかなる経済にも重荷となる。しかし、政府が両方を経済成長のブレーキに使ったのは間違いだと、同研究所は警告した。
同研究所の協力により金利と為替以外の観点から、ブラジル経済を分析した。経済成長の妨げとなっている五つの要因が過去十年間、世界ランクからブラジルを後退させた原因という。しかし、国民が努力すればマイナス要因の六五%は除去できるという。残り三五%は歴史に育まれたスローモーな国民性とした。
六五%の内容は、二八%が脱税王国と特許権無視のアングラ経済。一三%が政府の放縦支出と高金利、為替政策不在、一一%が直接投資の妨げとなる時代遅れの労働法と税法による取引コスト高、八%が教育と保健行政の不在、五%が港湾や道路、鉄道の未整備。
政府は脱税による損失分を重税で穴埋めしている。アングラ経済はイベリア半島とアフリカ、カトリックの遺産を引き継いだ。またブラジル文化が慢性的に後手なのも、立ち遅れの原因といえる。
アングラ経済がもたらすものは、モラルの喪失と無気力化、生産性の減退、設備投資の欠如、物まねだけで創造がないこと、本物経営を志す共営者を敬遠させることだ。第三者の投資や銀行融資を視野に入れた計数管理経営を拒み、アングラ経済の世界にトップリと浸かっている。
アングラ経済から立ち直った国も多い。スペインは九四年、零細・小企業の税制簡素化を図り、全企業をIT管理体制に取り込んだ。税収は以後、七五%増加。雇用は三三%増、失業は五〇%減った。
高金利政策では、公共債務の膨張で政府自身が自分の首を締めた。為替政策では自動車と農業、建設を犠牲にし、投機家を肥やした。対策は政府経費を減らして、金利を下げること。当局者は現実が分からず、まだ議論の段階にある。
時代遅れの労働法や税法が、ブラジルコストのハードルとして直接投資の妨げとなっている。ブラジルに製鉄所を建設すると、コストは中国の三倍になる。ブラジルと中国で同時スタートのプロジェクトは、中国が生産に入っているのにブラジルは図面の合格段階でモタモタしている。
教育と保健行政の欠陥は人材の質低下につながり、司法と治安の不備は取引のコスト高になる。公共サービスは成果よりも点数稼ぎが先行している。
インフレを退治したブラジルは、投資環境の改善に挑戦すること。農業など輸出につながる産業へのインフラ不備のインパクトは、大きい。大豆などは反当たり収量で米国を凌駕しているが、インフラで負ける。官民合資のインフラ投資計画の始動が期待される。