2005年12月14日(水)
日本の歴史教科書にブラジル移民史を!――この運動を盛り上げるべく、ノロエステ連合日伯文化協会(白石一資会長)は先月、百周年祭典協会の上原幸啓理事長に要請文を手渡した。六月、日本側では「移民・移住史の歴史教科書への記載を求める中学校社会科教師の会」が出版社に要望書を提出し、三社から前向きな回答が寄せられた。東京書籍『新編新しい社会 歴史』には四ページにわたって「広島県の移民史」を説明する特設欄がもうけられた。これら動きを後押しすべく、白石会長らはわずか二年にせまった移民百周年の機会に、さらにこの運動を盛り上げたいと意気込んでいる。
日本ではこの問題に関して、すでに社会科教育専門誌『歴史地理教育』(歴史教育者協議会編)〇四年九月号で特集が組まれ、各地で移民史を日本近現代史に位置付けた授業実践が進みつつある。
今年六月には「移民・移住史の歴史教科書への記載を求める中学校社会科教師の会」が、日本で中学教科書を作っている八社すべてに、中学歴史教科書に記載することを求める要望書を渡した。その中で、韓国・朝鮮や中国に関する記述は充実してきているが、日系人に関しては地理や公民の教科書でかんたんにふれる程度で、日本近代史に位置付ける形での歴史教科書への記述はほとんどない現状を訴えた。
八社中、大阪書籍、日本書籍新社、扶桑社、日本文教出版から回答があり、うち三社からは前向きな返答が寄せられた。
中でも大阪書籍編集部中学社会係は、「次回の教科書におきましては『移民・移住史』もふくめて、現代社会を生きる中学生のために、どのような歴史的事象を教科書に載せるべきかについてもう一度精査し直し、編集作業に取り組んで参りたいと考えております」と書いた。
日本側、同社会科教師の会の本庄豊さんは、半数の出版社から回答があったのは評価できるとしつつも、「教科書問題とは中国・韓国のことだけではないのだと気づいてもらい、ぜひ次回の教科書作成に活かしくれるよう期待したい。百周年を節目としつつ、国内外で運動を強めたい」とコメントした。
そのような流れの中で、来年度から使われる東京書籍の教科書『新編新しい社会 歴史』には四ページも「移民県広島」の紹介があることが分かり、「これほど詳述されるのは初めて」と中国新聞は報道した。
これら一連の動きをブラジル側から支えるべく、今年三月のノロエステ連合定期総会では、この問題が緊急動議として提出され、満場一致で承認されていた。戦前最も多くの入植者を受けいれた同地には「移民のふるさと」とも呼ばれ、サンパウロ州地方部の中核といえる活動を続けている。
先月、百周年祭典協会の会合の席上、同連合から、上原理事長にこの要望書が手渡された。文書には「この運動を全伯の日系団体にはかり、ブラジル日系コロニアの要望として、日本政府に働きかけ、ぜひ実現していただきたい」とある。「今のまま成り行きに任せていけば、日系は大衆の中に埋没し、消え失せていくでしょう。その時、祖先の移住した意義は失われるでしょう」との強い危機感がしたためられている。
これに対し、文協の吉岡黎明副会長は「百周年のプロジェクトの一つにするのがいいのでは」と語り、今年いっぱい受付けている百周年記念プロジェクトの第三次募集に入れる方向で検討に入った。
教育は国家の基本であり、その主たる教材は教科書だ。そこに移住史が記述されることは、移民が日本近代史の一部として認められることでもある。
白石会長は「これは重要なことです。サンパウロの方でまとめ、ブラジル全体の声として日本の文部科学省に要望書を出してほしい」と力を込めた。