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コラム 樹海

 ブラジルの俳句界は、指導者をまた一人を失った。ニッケイ新聞俳壇の選者富重かずまさん、八十五歳。実力者だったが、遅れて出た指導者だった。移民で来て、さまざまな仕事をし、その間、生活に追われたようだ。俳句を詠む時間も惜しんだことだろう。渡航前、三十三歳で「菜殻火」(野見山朱鳥主宰)の同人に推されるなど、才能を認められながら、花を咲かせたのは後年だった▼筆者にとって、俳句の鑑賞はむずかしいが、それでも、富重さんの作品は、平易、簡潔でありながら、奥が深い、と思う。贅肉を削ぎ落とすように、省略がこれほどできるのかと感心させられる。書いた評は比較的長く、しかもていねいだが、もの申すときは、温顔から想像ができないほど、寸鉄人を刺すというか、短い言葉が強い印象を聞く人に与えた▼かつて、日伯毎日新聞の新年別冊号用に随想を頼んだことがあった。注文した字数をきっちり守り、中支戦線に派遣された当時のことを書いていた。最前線での戦友との付き合いを淡々と描写していた。文章に無駄がなく、一度読んでいわんとするところがすべて理解できた。これが俳人の文章なんだと納得した▼生前最後の『蜂鳥』十月号の「あとがき」で、病気保養中の身を嘆いた。吟行や小旅行にでも行かないと視野が開けないと残念がっていた。末尾に投稿者たちに対して助言があった。旧仮名で作句を、五七五の定型で収まるように努力を、そして必ず季語をいれて完成させなさい、と。(神)

05/12/21