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W杯ドイツ大会=ブラジル優勝成るか=特別寄稿=各国のチームの活躍予想する=サッカージャーナリスト=沢田 啓明

1月1日(日)

 6月9日から7月9日までの1ヶ月間、ドイツ各地でワールドカップが行なわれる。ブラジル代表は優勝候補の最右翼に挙げられていて、世界中のメディアやサポーターから「圧倒的に強い」、「史上最強か」などと誉められている。02年大会のときのブラジルの下馬評は我々ブラジルに住む者から見たら理解できないくらい低かったのに、今度は「ホメ殺しじゃないのか」と疑いたくなるほどの持ち上げられよう。あのブラジル嫌いのアルゼンチン人たちですらブラジルの強さを認めているのだから、少々気味が悪いくらいだ。

■外国でも伯優勝予想

 ブラジル強し、という声には、もちろん、いくつもの根拠がある。
 昨年、主力を温存して事実上のBチームで臨んだコッパ・アメリカ(南米選手権)で、ほぼベストメンバーのアルゼンチンを破って優勝した。各大陸の王者によって争われるコンフェデレーションズ・カップでは、エース・ロナウドを欠きながらギリシャ、日本、ドイツを連破し、決勝で宿敵アルゼンチンを4対1と粉砕して優勝した。さらに、ワールドカップ南米予選もアルゼンチンを抑えて首位で突破した。
 それでは、なぜブラジルはそんなに強いのか。簡単に言えば、メチャクチャにうまい選手がたくさんいるからだ。

■天才級選手ら多彩に

 その筆頭がロナウジーニョ。04年の世界最優秀選手にして05年のヨーロッパ最優秀選手で、現在、世界最高の選手である。驚異的なテクニックの持ち主で、空中エラスチコ(右足のアウトサイドのボールを引っ掛けて右に抜くと見せかけて、すぐに右足の内側にボールを持ち替えて左にかわすのだが、これをボールを浮かせたままやってのける)、ノールックパス(パスを出す相手を見ないで、時には逆方向を向いた状態でパスを出す)、背中を使ってのパス(味方からの浮き球のパスを背中に当てて味方の選手に渡す)といった極めて高度で意表を突くプレーを、大きな歯を剥き出し、笑いながらやってのける。
 他にも、世界トップクラスの選手が大勢いる。29歳になったとはいえ、「怪物」ロナウドの決定力はまだまだ健在だ。「皇帝」アドリアーノの身体能力の高さと強烈なシュート力は人間離れしている。MFカカのスピードあふれるドリブルとパスセンスは素晴らしい。
 「ドリブル小僧」ロビーニョの足技は相手選手をキリキリ舞いさせる…。これだけタイプが異なるスーパ-スターがいるせいで、FKの世界的名手であるMFジュニーニョ・ペルナンブカーノが控えに回るという贅沢さ(もったいなさ)だ。
 ただし、ブラジルにも弱点がある。ディフェンスだ。
 GKジッダはいいとしても、右サイドバックのカフーと左サイドバックのロベルト・カルロスはスピードとスタミナの衰えが目立つ。ルシオとフアンのDF陣は、個人能力は高いのだが不注意による(としか思えない)イージーミスをしばしば犯す。とりわけ、ハイクロスの処理がまずい。ボランチのエメルソンとゼ・ロベルトが守備面でよほど頑張らない限り、手痛い失点を喫する場面がありそうだ。

■実力と優勝は別問題

 ブラジル人の国民性からして、優勝候補に祭り上げられたことで気が緩む可能性もある。
 また、リードしているときはいいが、守備のミスなどから相手に先制された場合に冷静にプレーして形勢を挽回できるかどうか。ブラジルが優勝できる実力を備えているのはまちがいないが、そのことと実際に優勝できるかどうかは別問題。史上6度目の優勝は決して簡単には達成できないとみる。
 ブラジルを追うのが、地元ドイツとアルゼンチンだろう。
 ドイツは02年の大会の決勝でブラジルに0対2と敗れたものの、準優勝という結果は大方の予想を上回った。今回は地元開催で、地の利とサポーターの後押しがある。MFバラックを中心にしたチームで、守備は堅いのだが、攻撃的MFとFWにタレントが少なく、決定力に乏しいのが弱点だ。ブラジルは個の力で優位に立つから、ドイツには相性がいい。

■怖いアルゼンチン勢

 アルゼンチンは、実力ではブラジルに次ぐのではないか。守備力はブラジルより上で、攻撃にもMFリケルメ、FWのクレスポ、サビオラ、テベスといったタレントがいる。ブラジルは伝統的にアルゼンチンを苦手としており、ワールドカップで一番当たりたくない相手だ。アルゼンチンはヨーロッパ勢を苦手としているので、ブラジルとしてはヨーロッパのどこかの国にアルゼンチンを倒してもらって、安心して勝ち進みたいところだ。
 これ以外に上位に食い込む可能性があるのは、オランダ、イタリア、イングランド、フランスといったところか。
 オランダは02年大会はまさかの予選敗退を喫したが、今回はグループリーグを圧倒的な強さで勝ち抜いた。選手の個人能力はヨーロッパ最高で、攻撃力がある。勝負強さに欠けるのが伝統的な弱点だが、実力はトップクラスだ。
 イタリアは、守備の強さは相変わらずだが、課題は攻撃力だ。
 イングランドは中盤にベッカム、ランパード、ジェラードら優秀なタレントがいるが、勝負強さの点で疑問符が付く。
 ポルトガルは、ブラジル人のフェリペ監督(02年大会の優勝監督)が勝負強さを叩き込み、徐々に力をつけてきた。04年の地元開催の欧州選手権では準優勝しており、上位進出の可能性がある。
 この他、中盤にネドベド、ロシツキーらのタレントを擁する初出場のチェコ、世界トップクラスのFWシェフチェンコが牽引するやはり初出場のウクライナに注目したい。
 アフリカ勢は、代表5ヶ国のうちガーナ、コートジボアール、アンゴラ、トーゴの4カ国が初出場だ。国際舞台での実力は未知数だが、02年大会のセネガルのようにベスト8に食い込む国が出てくるかもしれない。
 北中米からは初出場のトリニダード・トバコを含む4カ国が出場する。実力ではメキシコとアメリカが双璧で、いずれも大会の台風の目となる可能性がある。
 アジアからは、日本、サウジアラビア、イラン、韓国の4カ国が出場する。02年の大会で韓国がベスト4、日本がベスト16に進出したが、地の利(と韓国の場合は審判の「誤審」)に助けられた部分が大きかった。今回はヨーロッパで開催される大会であり、前回の成績はほとんど参考にならないだろう。


■日本は16強入り目標に

 ジーコ監督は「優勝を目指す」と言っているが、現実的な目標は前大会と同じベスト16、つまりグループリーグ突破ということになるはずだ。しかし、個人能力の点で世界のトップクラスとはまだかなりの差があり、目標を達成するのは容易ではない。
 日本が頼りにするのは中田英の経験と中村俊輔の展開力なのだが、それ以前に、敵の攻撃をどこまで食い止めることができるか。日本の守備陣には高さと強さの点で不安があり、試合の早い段階で失点するとFWの決定力が足りないだけに苦しくなる。ジーコ監督が叩き込んできた(はずの)勝利への執念も試されることになる。
 以上が主な出場国の実力分析なのだが、ワールドカップでは1次リーグの対戦国がどこか、ノックアウト方式となる決勝トーナメント以降の対戦相手がどこになるかも成績を大きく左右する。

■伯、決勝で独と対戦?

 ブラジルは、1次リーグで日本、クロアチア、オーストラリアと対戦する。オランダ、チェコ、ポルトガルといった実力国が入らず、やや苦手にしているアフリカ諸国とも一緒にならなかったから、ブラジルにとっては上々の組み合わせだ。
 私のシミュレーションでは、ブラジルが1次リーグを首位で勝ち抜くと決勝トーナメント1回戦でおそらくイタリアかチェコと、準々決勝でウクライナかスウェーデンと、準決勝でイングランドかアルゼンチンと、決勝でドイツかオランダと対戦することになりそうだ。
 一方、日本は1次リーグを2位で突破したら決勝トーナメント1回戦でチェコかイタリアと当たりそう。どちらも実力は日本よりかなり上だから、残念ながらここで討ち死にということになるかもしれない。
 ともあれ、ブラジルと日本の奮闘を期待したい。また、大会期間中、テロやサポーターどうしの喧嘩などのアクシデントが起きないことを祈りたい。