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コラム 樹海

 「トヨタ」というのは、ブラジルの古い移民にとって、不思議な会社だ。五〇年代の終わりからジープを通してその進出は知られていた。奥地では「いいジープだ」と定評があった。こんないいジープをつくる会社がどうして乗用車をつくって売らないのだろう―素朴な疑問だった。特に米国での躍進が耳に入ってきていたから、なおさらである▼六〇年代の半ば、トヨタ・ド・ブラジル社長に、〃捕虜第一号〃として高名な酒巻和男さんが赴任してきた。サンベルナルドの本社工場(当時)に話をききに行ったことがある。捕虜第一号だったことは、隠さなかったが、トヨタのブラジルにおける事業展開については全く語らなかった。「乗用車生産?そんな計画はないですよ」▼九〇年代における組立工場建設、現地生産に至る直前まで三十数年、歴代社長は、まるで寝たふりをしていたかのように見えた。機が熟すまで、ひたすら計画を練り上げ、満を持していたのだろう▼古い移民たちにとって不思議、というのは、この辺りである。▼〇三年トヨタ・メルコスール社設立。先日、同社の社長交代披露が行われた。千人もの客を招待した豪華なパーティであった。すでに昨年、域内で十万台生産を達成、いまや欧米勢の最後の牙城ともされる南米地域に食い込み、先進メーカーを追い越そうと態勢づくりをしている▼そのことを千人の顧客に明確に宣言するあたり、酒巻さん時代とは隔世の感だ。もう、不思議な会社だと思う移民はいない。(神)

06/01/18