2006年1月21日(土)
「ブラジルからのデカセギは、今後十~十五年ぐらいでほぼ消滅するだろうと思いました」。静岡県のNPO(特定非営利)法人、国際教育文化交流会の荻田房夫理事長=袋井市在住=は今月前半にサンパウロで現地調査をした印象を、そう語った。昨年十一月には「静岡県西部地域における外国人の子どもの教育―現状と課題―」という研究を発表し、公立学校に在籍する外国人児童生徒への支援教育を呼びかけた。来伯の機会に、その活動の一端を尋ねてみた。
日本福祉大学大学院博士後期課程に在籍する荻田さんは、昨年十一月に中京大学で行われた社会政策学会東海部会でも、外国人の子どもの教育問題に関する発表をした。
浜松市国際課の調査結果を引用し、県西部地区の外国人の子ども約千九百人のうち、ブラジル人の子どもでは四五%(六百四人)が公立学校に通い、三一%がブラジル人学校、二・五%が不就学、一三・五%が居住不明だった。
公立学校に通う子どもの約六〇%が「嫌いなところがある」と答え、その二番目が「差別やいじめ」(二六・五%)だった。荻田さんは「多かれ少なかれ『差別やいじめ』に遭っているということが、この結果でも理解できる」する。
また、ブラジル人学校は日本では私塾扱いであり、戻ることが前提のはずだが、浜松市の調査では、帰伯を予定していない同校の子どもは四六・四%、父兄は四三・四%もいた矛盾点を指摘する。
まとめの中で「共生から統合へ」と論じ、社会や文化的な面において多元性を推進すると同時に、政治や経済の領域では日本人と同様にする「平等」の推進をすすめる。
特に、教育の現場においては、現在はバラバラな「人権教育」「特別支援教育」「国際理解教育」を統合し、日本人と外国人の権利を対等にする提言で結んでいる。日本人には中学まで義務教育だが、外国人には成績を問わず卒業させる現状がある。
荻田さんは初来伯で今月一日から十三日まで滞在。移民史料館、文協、静岡県人会、日本人学校、USP、国外就労者情報援護センター、アルモニア教育センター、タボン日本語学校などを訪問し、デカセギ子弟の帰国後の適応状況を調査した。訪問を通して「ブラジルからのデカセギは今後十~十五年で消滅する」との印象をもったという。
理由は次の四点。1)日本の入管法により、就労できるのが日系三世までであり高齢化が進んでいる。2)日本経団連が「外国人受け入れ問題に関する提言」の中で、現在の血縁重視より、高度技術をもった人材の積極的な雇用を進めるよう、在留資格制度を見直す方針性を強めている。3)ブラジル内での雇用が拡大し、デカセギしなくても良い状況が生まれる可能性。4)〇七年から団塊の世代の大量定年が控え、厚生労働省ではこれらの再雇用を優先する政策を掲げており、デカセギとの競合が生まれるため、などだ。
荻田さんが理事長を務めるのは、在日外国人を対象とした日本語教室と日中少年少女国際文化交流を主軸とした団体。「ブラジル教員の定年後の再就職先として、日本の公立学校でのポルトガル語、ブラジルの歴史・地理などの指導にかかわる研究および事業」に力を入れていきたいという。
例え新たなデカセギは減っても、すでに日本に定住している日系人は多い。中でも在日外国人子弟をどう教育するかは、将来の試金石だ。このようなNPOの活動により、少しでも日本社会とブラジル人の間の溝が埋まり、「共生から統合へ」の過程が進むことを期待したい。