2006年2月4日(土)
次世代のデジタル・テレビの方式を巡って、日欧米がブラジルを舞台に熾烈な競争を繰り広げている。調査検討を進めているヘリオ・コスタ通信大臣は「技術的には日本方式がもっとも優れている」と持ち上げるが、二月末までにルーラ大統領が最終判断する見込みだ。もし決まれば、日本にとっては初の外国での採用であり、その意義が大きい。メルコスールのリーダー国で採用されれば、さらに域圏国内へ広がる可能性も高い。
二日、首都ブラジリアの大統領宮で行われた委員会には、日本側からは(社)電波産業会の重田憲之理事を代表に、民間人を中心に十人以上の使節団が参加し、コスタ大臣らに熱心に利点を説明した。堀村隆彦大使は「科学技術協力の面において、日伯関係強化のシンボリックなものになる。日本としては全面的に支援していく」との熱意を改めて表し、採用に向けての強い期待感をしめした。
採用された場合、日本側は惜しまずに技術支援を行い、それに関わる特許権料を徴収せずに、実施費用に関する融資にも上限枠なく応じるという破格の条件を示した。
国営通信によれば、コスタ大臣は日本方式に関して「我々の要求に厳密にこたえるもの」と高い評価をし、満足感をしめした。欧州方式では別チャンネルの周波数まで使わないと要求を満たす機能を発揮できないが、日本方式では一チャンネル分で可能な点を同大臣は賞賛した。
各方式は互換性がない。どの方式にしても、現在使っているテレビに取り付けてデジタル放送に対応させるコンバーター(変換機)を買うのと同時に、デジタル対応のテレビを買う大型の需要が発生する。同大臣は三日付けエスタード紙に「少なくとも六千万台のコンバーターが必要になる」と語り、この決定が産業界に及ぼす影響を示唆した。
欧州勢は前日に二億ユーロの融資を申し出ているが、「上限なし」を提示したのは日本のみ。業界筋の話では、グローボ局など大手放送局の大半はソニーやパナソニックなどの日本製機材を使用しており、すでに日本方式に適応している。それもあって先日、民放テレビ局が合同で日本方式を推薦する提案をしたばかりだ。
現在世界では次世代の方式を巡って、アメリカ(ATSC)と欧州(DVB)、日本(ISDB)がしのぎを削っている。米国方式が韓国、欧州方式が台湾で採用されているのに対して、日本方式は日本以外にないのが現状だ。各方式とも、各国が巨額の資金がかけて開発しただけに、採用されることで評価を高めたいとの思いは強い。
ブラジルでは〇二年ごろに三者による激しいロビー合戦が繰り広げられたが、〇三年に政府は独自方式を開発すると発表した。その後、資源や人材が不十分であるのを理由に、開発を断念。最もテレビの新規需要が増えるW杯前の二月に決めることになっていた。
同大臣は今後、米国勢の説明を受け、十日を目安に答申をまとめ、月末までに大統領が決断する予定。フォーリャ・ニュースに対し同大臣は、六月のドイツW杯で試験放送をはじめ、独立記念日の九月七日から公式放送を開始する意向を明らかにした。
日本側としては技術の提供、資金融資など切れる優遇カードは全て切った状態。あとはブラジル側の決定を待つのみだ。