2006年2月8日(水)
【ヴェージャ誌一九四一号】ブラジルに七七年赴任し永住した米紙特派員ノーマン・ゲイル氏は、ラテン・アメリカ問題の専門家としてサンパウロ市に世界経済研究所を設立した。教育と近代化をテーマとする文化交流に努め、ブラジルと欧米の掛け橋となっている。同氏のブラジル観は、着伯した三十年前から見ると全てが向上したという。しかし、さらに上へ向かって、挑戦をしなければならないと助言した。同氏は現在、帰化を申請中である。
以下は、同氏とのインタービューである。
【ブラジルの特徴は】ブラジルは、計画実現のチャンスに満ちている。さらにブラジルは、都市近代化やグローバル化、人権問題、教育と取り組んでいる。国民はこれらを、容易に消化する。それは十九世紀の米国に似ている。思想と発言の自由と活気がある。ブラジル以外の国では、出しゃばりと叱責される。
【ジアデーマ市を活動の中心に選んだ理由は】ジアデーマ市のスラム街で軍警が市民を殴打し、ムシけらのように射殺するのを目撃したからだ。この事件が私の心を捉え、同スラム街を足がかりにした。世界銀行の協力を得て、ジアデーマ市に市民治安フォーラムを設置した。
フォーラムでは、ジアデーマ市長や警察署長、市議、市民を招き、当局と市民の協力関係を築いた。同市の犯罪統計をつくり、分析と解決法を模索した。法大の学生に刑事訴訟の調査を依頼し、毎月犯罪解消の連絡会議を開いた。
【成果はどうだったか】犯罪都市となった要因の資料が、集まった。ジアデーマは、十万人に百四十人の殺人による死者が出る世界でも有数の犯罪都市である。何らかの措置を講じるべき時期にある。先ず夜間営業禁止条例を発令し、殺人事件は急減した。
ブラジルには、人種や宗教の偏見による紛争がない。ブラジルの低所得層社会では、小さなバラックを建て中古テレビを購入したら、大成功である。種々雑多な民族が混血しブラジル人を生み出し、同じポルトガル語を話し、一つの国旗のもとに団結できるのは素晴らしいことである。
【ブラジルの弱点は】時代遅れの労働法が、雇用創出の妨げとなっている。時代遅れの社会保障法が、教育予算の二倍の国家予算を食いつぶしている。労働法と社会保障法、この二つが諸悪の根源である。
ブラジルは若人の国だが、老人に金を使う。ブラジルは未来の国だが、過去のことに金を使う。年金は貧乏人にも行き渡るなら、本当の年金制度である。しかし、年金の六一%が、二〇%の金持ちに配布されているのは失政だ。
【年金制度を矯正するには】定年年齢を引き上げること。年金受給者の一一%に過ぎない公務員定年退職者が、年金の四〇%を享受する。この公務員が、定年年齢引き上げに反対する。ブラジルより遥かに貧しかった韓国が、ブラジルより豊かな国となったのは何故か。韓国は教育予算の四分一しか、年金に使わせない。年金は、老後の保障であって原動力ではない。
【公立校の学力低下の原因は】ブラジルで驚くべきことは、低所得層の平均在学期間が三・四年である。しかし、もっと驚くべきことは二〇%の高所得層が、僅か一〇・三年の在学期間で金持ちになったことだ。無学のエリートが、ブラジル社会をリードすることに問題がありそうだ。
【学校教育の是正法は】ブラジルの政治家が、教育の重要性を理解するのは、至難の業である。ブラジルの政治家は自分の体験を活かし、教育活動に顧問や相談役として無料奉仕をする習慣がなく、欧米の政治家とは考え方がまるっきり反対なので難しい。ブラジルのエリートは、心が暖かいが性分はケチなのだ。
【政治と汚職の是正法は】近著「ルーラとメフィストフェレス」で提言したが、ブラジルの議員は権限が多すぎて、責任が少なすぎる。全ての閣僚は大統領の指名を受けた後、上院の認証を受けるべきだ。閣僚は分野の専門家であるだけでなく、人格も必要だ。全政党はインターネットで候補者の資産内容を公表し、相互監査制度を設けること。