2006年2月15日(水)
「悪いことをしても逃げれば安心という認識を持ったブラジル人とは、もう暮らせません」。昨年十月、静岡県湖西市で起きた交通事故で長女の理子ちゃん(当時二歳)を亡くした山岡夫妻が十日、浜松の北脇保之市長に、国に対して犯罪者引渡し条約の締結や代理処罰の制度確立を働きかけてくれるようにお願いする嘆願書を提出した。容疑者の日系ブラジル人は事故の六日後に家族とともに急きょ帰伯し、現在当地で暮らしているとみられる。〇四年に日本で指名手配されて国外逃亡したブラジル人は七十一人もいる。二国間の将来を考えたとき、増加傾向にある国外逃亡ブラジル人の存在は、こころある両国民に暗い影を落としている。
もう抱きしめてあげられない、もう髪も結んであげられない。もう二度と、二度とあの笑顔に会えない――。「加害者よ! 理子に謝って」と題したこの嘆願書には、娘を亡くした悲しみが切々とつづられている。
「いくら過失とはいえ、人一人死にいたらしめたのだから罪を償うのは当然ではないでしょうか? ブラジルに帰ったからもう安心。そんなことは絶対に許せません。今ものうのうと平穏に家族と暮らしているかと思うと、一人で逝かせてしまった理子がかわいそうで仕方ありません。残された私達親が理子にしてあげられることは罪を償わせ謝らせることだと思います」
昨年十月に湖西市で起きた交通事故で、二歳十カ月の理子ちゃんを亡くした会社員、山岡宏明さん(42)と理恵さん(40)夫妻が十日、浜松市役所を訪れ、北脇市長に「理子のような不幸な子、私たちのような悲しい遺族を出さないように、外国人集住都市会議の場で積極的に提言してほしい」と涙ながらに訴えた。
嘆願書には、ブラジルとの犯罪人引渡し条約の締結や代理処罰の制度確立を国に働きかけることを求める嘆願が書かれている。
この件を報じた静岡新聞によれば、北脇市長は「外国人をきちんと受け入れることと犯罪に厳しい姿勢は矛盾しない。同じような立場の都市と連絡を取り合いながら声を上げたい」と理解を示した。山岡夫妻は今後、湖西市への同様の嘆願所を提出し、署名活動などを展開し、協力を呼びかけていくという。
事故後、家族と共に帰伯したフジモト・パトリシア(31=当時)容疑者の住所はサンパウロ市南部のブタンタン区。昨年十二月に本誌記者が訪れたときは、〃知人〃を自称する一家が在住。「パトリシアとは連絡がとれない」などと語っていた。
この他、昨年十一月、同じく浜松市龍禅寺町のレストランで経営者の日本人(57)が首をしめられて窒息死させられ、売上金が奪われる強盗殺人事件が起きた。浜松中央署の捜査本部は、近所に住んでいた日系ブラジル人コンサルベス・ハジメ(34)容疑者が事件に関与していたとして、強盗殺人容疑で逮捕状とったが、事件の数日後、すでに帰伯していたことが分かった。
このような国外逃亡者は〇四年には七十一人。逃亡外国人の中では、中国人に次いで二番目に多い。
山岡夫妻は嘆願書に書いている。「もちろん、まじめなブラジルの方もいらっしゃいます。そんな方々と共生するためには、やはり犯罪人引渡し条約の締結や代理処罰は不可欠だと思います」。日系ブラジル人全体へのイメージが悪化することを憂う声もコロニアにはある。
「公の場で謝罪を!」
山岡夫妻からのメッセージ(抜粋)
パトリシアさん。
今、あなたは何を思っていますか? わたしたちと同じように小さなお子さんを持つ母親です。きっと同じように苦しんでいる・・・。そう信じたい。
うたが大好きでよく大きな声で歌っていた陽気な理子。笑うと、くしゃくしゃな顔でたれ目ちゃんになる理子。そんな理子はもういない。
会いたいです。お願いです。どうか私も殺して理子に会わせてください。
あんなに小さくてまだ一人では何も出来ない理子が一人でどうやっているのか?「ママ~」って泣いていないか?そんなことを考えだすともう堪らず気が狂いそうです。
理子を返してください。理子の人生を返してください。わたしたちの幸せを返してください。それができないならば、とにかく心から理子に謝ってください。わたしたちには遠いブラジルにいるあなたを裁くことは出来ません。
でも少しでも罪の意識があるのなら公の場に出て謝ってください。そうでなければ、きっときっと天罰が下るでしょう。悪いことをしたら謝る・・・。あなたはそんな風に自分の子供に教えてはいませんか?
あなたのことをお子さんも見ています。なぜあの事故のあと逃げ帰ったのか? 四歳でもあなたの背中を見ているはずです。あなたの行動を見ています。
わが子のために、自分が手本になってあげてください。わたしたちに、そして天国にいる理子にあなたの誠意をみせてください。