2006年3月7日(火)
二月六日午後七時過ぎ、ペレイラ・バレット文化協会の会館で、曹洞宗の中山允、真光、両僧侶によって、厳かに般若心経が唱えられ、一行は順繰りに焼香してチエテ開拓先亡者を慰霊した。
挨拶にたった南雲団長は「訪問したかいがあった。大変なごちそうと楽しい懇談ができた。心のこもった歓迎をしてもらいありがとうございました」と礼をのべた。
連日顔を出したノロエステ連合の白石一資会長は「三日で四回も慰霊していただき心から感謝します」と頭を下げた。その後、婦人部が用意した心づくしの食事をいただき、地元のみなさんと話に興じた。
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今回の旅は、マラリアにより「移民史上にも類を見ないほど多くの犠牲者を出す悲惨事」(『日本移民八十年史』)を刻む平野植民地に始まり、先駆者の汗と血がにじみこんだノロエステ線の各地を舐めるように巡礼するもので、先駆者のたどった壮大なドラマを追体験する趣に溢れていた。
参加者の一人、多川冨貴子さん(69、三重県)は「今回は観光抜きで、移民の発祥の地をまわって良かった。移民の歴史を本で読むだけでなく、このように実際にまわってその土地を踏むと感激もひとしお」と旅の感想を語った。さらに「白石会長は、私たちが行くとこ行くとこに来てくれてびっくりした。あの人の挨拶は愛がこもってる」と賞賛。
磯順代さん(66、福島県)も「移民発祥の地で、ご先祖さまに手を合わせることができて心が洗われる旅だった」という。
夫の竹中清さん(70、神奈川県)と共に参加した芳江さん(64、熊本県)は「もっと中学、高校生ぐらの若い人にも参加して移民史を勉強して欲しいと思った。日本語学校の生徒とかね。日本へ働きにいくだけでなく、自分たちのご先祖さまの歴史にも目を向けて欲しい」という。
大半が体験に重ね合わせながら理解しているのに対して、まったく初めて〃移民ワールド〃に踏み込んだ若い女性がいた。
最年少参加者、駐在員子弟の庄司留美さん(22)だ。平均年齢七十歳前後と思われる一行の中では、ひときわ目を引く存在だ。
大学で看護学を学んでいる彼女は、ポ語が達者で一見するとまるで二世に見える。ブラジルで生まれ、両親から日本式の教育を受けて育ったが、今までコロニアとの接触がなく、移民の歴史を全く知らなかった。
この旅に参加したのは、NHKの『ハルとナツ』がきっかけだった。ドラマを見て、「あんなのあるわけないじゃんと思った。喧嘩までして勝つとか負けるとか、そんなことが起きるのが信じられなかった」と首をひねった。同じこの地に生活していても、最初は信じられなかったという。
食事の時など、なにげなく移住者の席に混じって座り、興味深そうにじっと話に聞き入る彼女の姿がみられた。「この旅に初めて参加して、年の離れた人と話してみて、あの人たちにはそういう事情があったんだと思うようになった」としみじみ語った。
留美さんの父親、清一さん(54、山形県)は一九七三年に来伯した。木材取引の会社に日本から出向、駐在歴は三十三年を数える。取引先に上塚植民地出身者がいて話を聞いていた。今回の目的地がノロエステと知り、ぜひ実際に見てみたいと思ったという。
「移民の歴史をかいま見ることができて、実に有意義な旅だった」とビールを傾けながら快活に笑う。
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午後十時、「渡伯同胞送別の歌」と「ふるさと」を合唱。何度も歌っているのですっかり息が合っている。
最後に、司会の田中俊雄さんは「十分な接待もできず申しわけない。帰りの無事を心からお祈りします」と謙遜のかたまりのような挨拶。地元勢が総出で花道を作ってくれ、一人一人が握手する長い列ができた。
婦人部からは「またいらしてください」との声が何度もかかり、一行は後ろ髪を引かれる思いでバスに乗り込んだ。これだけ熱烈なお別れの挨拶は初めてだ。
ペ・バレット役員一同は会館前で一行のバスを見送って、暗闇の中でいつまでも手を振ってくれる姿が印象的だった。
先駆者を弔い、移民史の核心にふれるとともに、移住地の人情にこころを揺さぶられる――。二十四回目にして原点に返ったような、今回のふるさと巡りだった。
(終り、深沢正雪記者)
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