2006年3月15日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙五日】カンプス出版社から「なぜウソをいうのか」という本が全国で一斉に発売され、ベストセラーとなった。ウソの生理的分析と精神的分析と銘打っている。誰でもウソをいい、ウソをいわなかったら人間は精神に異常を来たす。著者は哲学者のダヴィ・L・スミス氏。ウソとは、生きるために生活の知恵を演出する方法という。ダーウインの進化論に基づき、同哲学者はウソを考え出す脳のメカニズムを解明した。他人を騙す生活の知恵は、長い年月を経て習得したものとしている。
ウソ理論が今、ブラジルでセンセーションを巻き起こしている。ウソと気付かず罷り通っているウソも、沢山あるのだそうだ。次は同著書の要旨である。
【ウソの成長過程】ウソのほとんどは代々、先祖から研究成果を引き継いだもの。騙すのは、人間ばかりではない。花もおしべを誘うため、めしべは臭いを放つ。蛇や猿も騙す知恵を持っている。ウソは自然界の方法。しかし、人間は他の生物より賢いので、ウソに計算を折り込んでいる。
【ウソは先天的なもの】人間は全員、ウソをいう能力を持っている。ウソは呼吸をしたり会話をしたり、異性を口説いてことに及ぶのと同じ自然の行為である。夫は妻に情婦にウソをいい、妻は夫にウソをいう。医者は患者に、弁護士は顧客に、政治家は国民に、ウソは人間性の中に染み込んでいる。ウソのない丸出し社会なんてあり得ない。一日だけ本当のことを洗いざら言ってみては、どうだろう。ウソのままにして置いて欲しかったとなる。
【ウソの上手下手】許されるウソと許されないウソの区別が必要。後遺症を残す悪意のウソは、危険だ。ウソは訓練して上手につく。ポーカーではベテランのウソつきがいる。ほとんどのウソは、本人もウソであることに気付いていない。
【ウソの功徳】ウソは先祖らが、社会を運営するのに重用した。現代でも混乱を避けるため、ウソは起用される。ウソのような本当は人間を不快にするが、本当のようなウソは楽しくなる。武士は食わねど高楊枝のウソは、気品を高め薄給でもクヨクヨしない。
【自分を偽るウソ】人生には、どうにもならない時がある。そんなときは自分を偽って励ますこと、それでもダメなら諦め落ち込まないこと。フロイトは人間の頭脳は二つの部分からなり、一方が失意のどん底にあっても他方が救うといった。いつも生理的と精神的な二人の自分がいるのだ。自分を偽るウソは、生活の知恵である。
【自分を偽るのは自然の健康法】適当に自分を偽るのは、健全な自己保存。誰にも失意の時代はあり、どん底からの脱出には、自分を偽るしかない。落ち込んだまま立ち上がれない人を調査したところ、自分に忠実な人ばかりだ。失意の中にある人は、発狂する前に自分を偽る必要がある。
【ウソは会話の始まり】人間が言葉を発明する前にウソはあった。エヴァは、アダムにウソをいった。女性が化粧をするのは、ブスを美しく見せるウソ。ウソは、現実を楽しくするための知恵である。言葉は人間の周囲に、現実を超えた想像の世界を創る。「愛してる」と心にもないウソを平気でいうが、ウソと知っていても結構楽しい。ウソはジェスチャーに、甘い声に、表情にあり、言葉ばかりではない。
【ウソの見分け方】ウソの定義がないから、見分けるのは困難。ウソ発見器は、精神的動揺を感知するだけでウソを発見しない。ウソは方便と釈迦がいった。また神だけが真実で、人間の口から出る言葉は思い込みに過ぎないとキリストがいった。何が真実で何がウソという定義もない。あるのは社会にとって好都合か不都合かであって、不都合をウソとするのは間違いだ。