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次々に国際手配される日系人=帰伯逃亡デカセギ問題=「ほっておけない=両国で対策を協議へ

2006年3月16日(木)

 「ほっとけない問題だと思う。日本で罪を犯して、こっちに逃げてくるなんて。何とか解決しなくてはならない」。ブラジル側のデカセギ関連の代表機関、文化教育連帯協会(ISEC)の吉岡黎明(二世)会長は決意を新たにする。
 〇二年八月にサンパウロ市と北パラナのロンドリーナ市で行われた日伯デカセギ問題シンポジウムが出した宣言文でも、両国間の刑法犯に関する法律問題は提起されていた。同シンポジウムには北脇市長も出席した。
 この会議の提唱を基に、ISECが翌年発足した経緯がある。この時は、主にブラジルの留守家族が日本に働きに行った夫と音信不通になり生活費に困るケースなどが議論とされた。吉岡会長は、今回の問題につながる提言がすでに盛り込まれていたと説明する。
 静岡新聞の報道によれば、北脇市長は今年秋に行われる外国人集住都市会議でこれを議題にとりあげ、外務省や政府に条約締結を求める意向を表明している。
 また、昨年十月に同県湖西市で起きた交通事故で長女(二歳)を亡くした夫婦は、「せめて娘の遺影の前で謝ってほしい」との気持ちから、条約締結やブラジル国内法で裁く代理処罰制度確立を目指して署名活動を始めるなど、問題解決に向けた動きが活発化している。

◇代理処罰は可能か◇

 一方、日伯の国際法に詳しい二宮正人弁護士(国外就労者情報センター理事長)は、日本側で始まっている引き渡し条約締結への動きに疑問を投げかける。
 「ブラジルでは、自国民の不引き渡しの原則が確立している」との憲法解釈を説明する。つまり、同条約が締結されても、憲法で自国民を外国に引き渡さない原則が保証されている。
 この問題を大きく扱った八日付けニッポブラジル紙によれば、ブラジル外務省官僚のコメントとして、ブラジルはすでに十八カ国と犯罪人引き渡し協定を結んでいるが、憲法の規定により、自国民を外国に引き渡すことはできないとの解釈が紹介されている。だから日本が締結しても同様になる、との見通しだという。
 より現実的なのは、日本政府が犯罪者引き渡しを政府ベースで要請することだという。今のままでもブラジル法務省が法廷を開き、代理処罰できるとの見解が記事に書かれている。
 二宮弁護士も「ブラジル刑法の域外適用は可能」と別の表現をする。これは日本で裁判の判決として有罪になった案件に関して、警察の調書などの関係書類を全てポ語に翻訳し、在日総領事館で認証した上で、ブラジルに持ち込み、こちらの弁護士をやとって告発する方法だ。日本から帰伯逃亡するブラジル人を、ブラジルで裁判にかけるのは現在でも可能だという。
 やはり代理処罰制度はすでにある、という。
 ただし、費用の点に問題があるため、「今までに行われたケースはない」(二宮弁護士)。日本側での翻訳・認証費用がかさむのはもちろん、ブラジル側での訴訟費用もかなりの金額になるからだ。「でも、その先鞭をつけることが、今後に対しての最大の予防策になるのでは」と提案する。

◇専門家のセミナー開催も◇

 国際法の権威、伯日比較法律学会の渡部和夫(二世)会長は「この問題に関して、専門家を招いて来月ぐらいにセミナーを開催し、いろいろな観点からの議論を深めたいと考えている」と今後の対策をコメントした。二国間にまたがった複雑な法律問題であり、まず専門家による検討が必要との判断だ。
 十三日夜、電話取材に答えた渡部会長はすでに浜松ブラジル協会の石川エツオ会長(弁護士)と会合し、北脇市長からの協力要請を聞いていると語った。日本側から具体例の案件をポルトガル語文書として提供してもらい、それを叩き台に議論することになっていると明かした。
 両国側で問題解決に向けた動きが出てきた現在、今まで以上に連絡を密に取り合いながら、効果的な対策を協議することが求められそうだ。

■最近の国際手配事例■

 昨年十一月、浜松市龍禅寺町のレストラン経営者が他殺体で見つかった事件で、その直後に帰伯逃亡していたブラジル人アルヴァレンガ・ウンベルト・ジョゼ・ハジメ容疑者(34)がさきごろ、強盗殺人の容疑で国際刑事警察機構(ICPO)を通して国際手配された。
 同様に、同県湖西市で昨年十月、自動車で衝突事故を起して二歳の女児を死亡させたとされるブラジル人フジモト・パトリシア容疑者(31)も、事故後に帰伯逃亡したが、業務上過失致死容疑で指名手配されていた。一日付け静岡新聞によれば、県警は国際手配の手続きを進めている。
 さらに二日付け同紙によれば、一九九九年に浜松市内でおきた女子高生=当時(16)=ひき逃げ事件で、同県警は指名手配中のブラジル人ヒガキ・ミルトン・ノボル容疑者(28=当時)を、やはり国際手配する方針を固めたという。