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アマゾン探検記――一戦後移民の体験――連載(1)=旺盛な開拓者精神の発露=猟師とともに重武装

2006年3月18日(土)

 アマゾン探検記――パラー州アレンケール市在住の坂口成夫さんの寄稿である。坂口さんは陸軍士官学校第五十八期生。渡伯後の一九五七年の「探検物語」だ。ジャングルの中で、オンサや鰐(ワニ)を20口径の猟銃で撃つ。当時、壮年だった坂口さんは、日本国内では文字でしかない「血湧き肉躍るジャングル探検」をブラジルで実地でやった。およそ五十年経て、探検した土地の周辺も変貌したことだろう。坂口さんは、熟年期にはいって、探検記を綴った。戦後移民では、希有な探検経験者といえよう。十一回にわたって紹介する。
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 探検というほど大袈裟なものでもない。
 ただ単に人の入らぬ奥地に踏み込んで、農地や牧場に適するか、どんな地形でどんな動植物があるか見てみたいという、よくいえば旺盛な開拓者精神、悪くいえば度し難い野次馬根性の発露である。
 時は、一九五七年十月から十一月ころのこと、詳しいことは日記帳につけておいたはずであったが、奥地から町に引っ越したとき、紛れてなくなっているので、一日目、二日目、という具合に記載することにする。
 目的地は、アマゾン河北部の一支流であるクルアー河(この沿岸に小生が現在居住しているアレンケール市がある)。そのまた支流にイガラッペー・デ・インフェルノというのがあり、そのまた支流にイガラッペー・プレトというのがあり、これとイガラッペー・デ・インフェルノとの合流点付近に天然草原があるとのこと。
 これは、天然ゴムの採取人がイガラッペー・デ・インフェルノにゴムを採取に行ったときに(といっても、カノアで漕ぎ上がって行くので、陸路からはまだ誰も行ったことがないとのこと)その連中が見つけたものです。この天然ゴムは、バラタ・ゴムといって自動車のタイヤやゴルフのボール製造に欠かせない材料です、とある物産の社員が教えてくれました。
 その天然草原と、ひとまずイガラッペー・プレトに出て、その付近を調査してみようというわけです。
 イガラッペー・デ・インフェルノとは訳して「地獄の川」という物騒な川で、イガラッペー・プレトとは「黒い川」の訳です。
 人員は私と弟、土人二人で、一人はフィルモという名で老練な猟師、一人はフランシスコ、縮めてシッコという若い威勢のいい猟師です。
 装備は、私がベルギー製の20番口径の猟銃・38口径のレボルバー・刃渡り35センチの農刀に鞘をつけてゴボー剣よろしく左の腰に、弟と二人の猟師は米国製20番口径の猟銃とともに、農刀に鞘をつけて左の腰へ。銃の口径を統一したのは、弾薬の融通性のためで、各人十発宛、ほかに火薬、鉛丸、雷管を携行して、消費した分はまた詰め直して使用することにする。
 食糧は、米、マンジオカ粉、コーヒー、砂糖、塩、ピラルクーの焼いたもの少々、肉類は現地調達するとして、大体十日分を用意する。
 薬品は、マーキュロ・クローム、毒蛇血清、注射器、ペニシリン、テラマイシン、エンテロビオフォルム、スルファ剤、針、糸、釣り針・釣り糸、磁石、マッチ。マッチが濡れて使えぬときのために、レンズをひとまとめにしてビニール袋に入れる。
 つづく(坂口成夫さん記)