2006年3月29日(水)
【ヴェージャ誌一九四八号】ブラジル民主社会党(PSDB)から公認候補に指名されたアウキミンサンパウロ州知事は、低音戦術で大統領選を競うらしい。毎日針灸の治療を受けながら三カ月にわたる熾烈な党内戦を勝ち抜き、セーラサンパウロ市長推薦の意向だった三長老を説得した。党公認を獲得して喜ぶヒマもなく翌日、Iboppeから朝日のごとく昇るルーラ票に対し、遅れをとるアウキミン票の調査報告を受けた。テレビ放送が始まるまでの辛抱と自分に言い聞かせた。ほとんどのブラジル人が知らない名前だ。
父は獣医、母は小学校の先生。十九歳でピンダ市議に当選。二〇〇一年に副知事から昇格、〇三年から知事二期目を務めた。サンパウロ州はブラジル最大の予算を扱う州で有権者数も最大、大統領への橋頭堡としては最適である。ブラジルの経済成長率が〇四年に二・七%といっているとき、サンパウロ州は七・六%の高度成長を遂げた。
税収は、任期中に八四%増。地下鉄の増設やチエテ川の近代化、港湾整備、公共病院の拡張と奔走し、ブラジル創生への自信を深めた。知事には内心思うところがある。PSDB中央集権の体質改善だ。
知事の考えは、地方の豪族から歓迎された。三長老は鶴の一声で、PSDBが動くと思っていた。しかし、アウキミン擁立で結束する地方連合軍の台頭に驚いた。知事はドサ回りで地盤を築いていたのだ。
PSDBは八八年、党創立以来寡占政治が行われ、密室で党方針が決議された。カルドーゾ前大統領とネーヴェス知事、ジェレイサッチ党首の三人が、PSDB三位一体の神と崇められた。知事は四番目の神様となったが、これを機会に中央集権を廃止した。
もはや前大統領といえどもオーケストラの指揮者ではあり得ない。ジェレイサッチ党首も二派の仲介役と御者役を解かれた。ネーヴェス知事だけがPSDBの領袖として残った。セーラ市長が知事選候補を希望するなら、領袖がお膳立てをする。
サンパウロ州では知事の辞任に伴う従来の影響力を誇示しない。要職に自分の息がかかった部下の配置をしない。地盤保持や暗黙の了解、影響力誇示、野心丸出しの政治手法は廃止にする。PSDB政治は知事によって大きく変わる。
アウキミン氏は予備校で化学を教えながらタウバテ医科大学の授業料を稼いで勉強し、大学院も終了した。麻酔医として一千回以上の手術に立ち会った。前大統領やサンパウロ市長のような外国の一流大学で博士号を取得した経歴もない。英語も下手で特訓中である。
知事が遭遇する壁は、北部と北東部で知名度がないこと。大統領とのれんを分ける左翼には関心がない。セーラ市長を支持していた学術者や有識者、芸術家、オピニオン・リーダーも知事とウマが合わない。自由前線党(PFL)はサンパウロ市がスッポリ貰えるはずだったので、アウキミン候補にガッカリしている。
アウキミン陣営の汚職防止と経済成長キャンペーンに対し、ルーラ陣営は地方キャンペーンと中流階級の取り込みで二部隊を編成する。サンパウロ州政治のあら捜し、治安不備と未成年対策を攻撃する。少年院の暴動で、収容者の惨殺シーンや拷問の生々しさを茶の間に流し州政批判の材料にする。
テレビは候補者にとって奇跡製造機という。TVドラマの時間が選挙宣伝になれば、アウキミン医師には勝算があるらしい。知事選をマルフ氏と戦った〇二年、選挙を二週間後に控えマルフ四〇に対しアウキミン二四で、絶望に等しかった。そのとき秘密兵器が威力を発揮した。
しかし、地方選と大統領選は違うという意見もある。大統領選では知名度がものをいう。出口調査で優勢であったものが、最終的に勝利を得るジンクスがある。調査の度に支持率を右肩上がりに伸ばしたアウキミン票は、可能性としては侮れない。