2006年4月1日(土)
とにかくのどが乾いている。水を飲もうとイガラッペーに下りる。水は流れが止まっている。澄んでいるのに魚影がない。水辺の浅いところにオタマジャクシがウジャウジャいる。
少し変だなと思う。たいてい川の流れが止まったところには、逃げ遅れた魚などが集まっていて、バシャバシャ、ボチャンとやっている。それがしーんと夕焼けを受けて静まり返っている。
「これは変だ。この水は飲むな」と警告して、川辺に小さな井戸を掘る。五十センチくらいで水が出た。きれいな水である。地面から約三十センチのところに、黄色い砂の層がある。弟が「金じゃないか」と言う。
「バカ言え、金が砂の層の中になんかある筈がないじゃないか。金は重いからもっと下の岩層の上の砂礫の中に混じっているもんだ。多分鉄分を含んだ砂の層じゃないか」などとわいわい言いながら掘り下げる。
水はたらふく飲んだが、狩りに出掛けたフィルモとシッコは手ぶらで帰ってきた。時間が遅いので、動物の出歩く時間を過ぎてしまったためだ。もっと夜になると、夜行性の動物が動き出すが、それまではいくら歩き回っても無駄である。
そこで食うのは諦めて、バンドの穴を二つほど締めて寝ることにする。ちょうど川の真ん中に平らな石が一メートルほどの高さで横になっている。その上で寝ることにして、薪をたくさん集めて火をおこし、その回りにゴロ寝する。
この大石は、両岸から二十メートルほど離れていて、途中何の遮るものもない石ころの河原である。川岸に着いたとき、柔らかい土の上に残された直径二十センチほどもある大きなオンサの足跡があり、なおケイシャーダが鼻で土を掘り返したあとが延々と続いていた。どれも真新しい。
それでオンサの襲撃は避けられないものと予想して、各人、銃に装填して銃を抱えて寝る。最初は弟が不寝番で、次が私の番である。
月はあるが、あまり明るくない。もうそろそろ不寝番を次に渡そうかなと思っているとき、今まで降るようにあった虫の声が、片方の岸だけハタと止んだ。
「来たな」となおも対岸を見つめていると、茂みの辺りに、気のせいか、むらむらと殺気に似たようなものが沸き上がり、空気は一気にピーンと張り詰めた。
ちょっとでも隙をみせれば、すぐ付け込まれそうで寸分の油断もならぬ。そろりそろりと寝撃ちの姿勢に移り、静かに撃鉄を起こす。カチリと思ったより大きな音がする。「さあ、いつでも来い」と闘志満々待ち続ける。
すると、また微かな布ずれの音がして、またカチリと来た。そっと横目でみると、フィルモがやはり銃を構えている。これも気配に気がついて目が覚めたものらしい。空中の殺気はますます強くなっていったが、ふとその殺気がなくなってしまった。
しばらくすると、また虫の音が沸き起こる。フィルモが「行ってしまった」とつぶやくのが聞こえる。
「おい、フィルモ、どうして判かったんだ」と聞くと、「なーに、猟を長くやっていると、危険が迫ったときには肌に感じるんだ」とけろりとしている。
不寝番をフィルモに渡して寝る。フィルモは「多分、もう来ないだろう。オンサだってこりゃ危ない、と思ったら近寄らないもんだ」とつぶやきながら、新しい薪をくべ足していた。
つづく (坂口成夫さん記)
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