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アマゾン探検記――一戦後移民の体験――連載(10)=闇の中、光る目、鰐を撃つ=1時間後、逃走計り絶命

2006年4月5日(水)

 しばらく行くと、かなり高い梢に鷹が一羽止まっている。「しめしめ、少々肉が固くても生(なま)なら食えるだろう」と、狙いを定めてズドンと一発。鷹はパッと飛び上がって、それから悠々と飛び去って行ってしまった。ほとんど外したことがない一発も腹がへっていると当たらない。皮肉なものだ。
 明鏡止水・平常心そのものなら、ほとんど百発百中なのだが、心に邪念がはいると腕や指の動きに影響が出て失敗する。人格形成の未熟さを覚えさせられた一幕であった。
 あとはもう目印を頼りに次から次へと辿って、半ば機械的に歩きながら、ようやく基地に着いた。
 第一番に水の中に頭を突っ込んで、がぶがぶ洗面器いっぱいほど飲んだが、乾きは少しも止まらない。すると、ナザーロという男(これは私の隣人で、私たちとは別に狩りに出ていた。そして私たちの小屋で一休みしていた)がつくりたてのカフェの熱いのを持ってきてくれた。
 フーフー吹きながら飲み終わってみると、あら不思議、さきほどまであったあの乾きがなくなってしまった。カフェがこんなに乾きを癒すのに即効があるとは、うかつながら今まで知らなかった。
 埋めておいてある肉を一部掘り出して煮る。腹いっぱいになったところで、ハンモックに横になって、今日の残りは休養とする。
 夜、疲れも回復し、雑談しながら、懐中電灯で四囲を調べてみる。ポッソの中に鰐の目が光っている。目と目の間隔からすれば、かなり大きい。こんな奴がいるとは知らなんだ、知らずに水浴びなどしていたが、まかり間違ってガブリとやられたら、第一巻の終わりである。
 これは、やっつけるにしくはないと、そっと近寄り、目と目の間を狙ってズドンと一発。目の光りはパツと消えて、水の中に沈んでしまった。当たったかどうかは判らない。しかし、確かに手応えはあった、などと言いながら寝に就く。
 一時間ほどして、いきなりドスドス、バサバサと異様に大きな音を立てながら、何かが逃げて行ったが、間もなく止まってのち、動いた気配はない。

 第五日
 朝、目覚めると、早速カフェを済ませて、昨夜の音の正体を見に行く。ポッソの端から何かを引きずったらしい跡がついている。
「ハハァこれだな」と後を辿っていくと、約五十メートルほどのところに、いた、いた、鰐のでっかい奴が。棒でつついてみたが、反応はない。もう死んでいる。四メートルほどある。
 調べてみると、目と目の間を撃ち抜かれている。撃ち抜かれてなお一時間も水に浸かっていて、なおかつ五十メートルも走る余力を残しているとは、何という生命力、と驚かざるを得ない。
 「どうする。皮でも剥いで持って帰るか」と言うと、フィルモが「いや、もうその暇はないだろう。よく耳をすましてみろ」と言う。
 なるほど、先程から鳴き始めたグアリーバが、耳を聾するばかりに鳴いている。そのため空気までがビリビリ震える感じだ。それに交じって風の音がひときわ高くなってきた。
 「これはひと雨くるぞ」と、みんな一散に小屋に向かって走った。走り着くか着かぬかに、もうポタリポタリと大粒の雨が降り始め、しばらくすると豪雨になった。それが、木の葉に当たるしぶきで白い衝立が立ったようだ。それに風が立って今にも小屋は吹き飛ばされそうだ。
 フィルモが「これは、セニョールが昨夜言ったマンイ・ダ・アグア(水の母とも訳すべきであるが、水母―くらげ―では話にならない。日本流にいえば、池の主ということになる)の祟りで降ったのだ。当分、止みそうにない」と言う。つづく (坂口成夫さん記)

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