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孤立感深める大統領=重臣2人を失う=協力者に多くの権限委譲=何も知らないPTの象徴

2006年4月19日(水)

 【ヴェージャ誌一九五〇号】最後の地上の天使、パロッシ前財務相の失脚により、ルーラ大統領の孤立が明白になってきた。大統領公邸アウヴォラーダ宮の改修は一八〇〇万レアルをかけて二十九日、再落成式を行った。しかし、いつもの大統領夫妻の上機嫌な姿はなかった。ヴェルサイユ宮殿の落成式がナポレオンの衰退期を象徴したようにだ。労働者党(PT)の総指揮官ジルセウ氏を失って一年も経たずに、パロッシ氏が降りた。同氏の辞任は大統領選で落選するより悲しいと大統領は涙した。全ての党活動は、大統領は知らなかったことを前提にシナリオが創られている。ルーラ大統領は、PT統合の象徴であって何も知らないのだ。
 三月十四日、ヴィアナ上議(PT)は管理人を葬ったと大声でPT党員に伝え、大統領も聞いている。同十五日、ワグネル政調会長の誕生祝いで、大統領は概要報告を受けた。同十七日、管理人の口座に二万五〇〇〇レアルの預金があることを雑誌報道で知った。同二十一日、財務相辞任の六日前、ことの重大性を聞かされた。同二十三日、口座の違法開示を閣議に図った。しかし、大統領は耳に栓をして何も聞いていないのだ。
 ルーラ大統領は、何度も報告を聞いたが何の策も打たなかった。聞いてないし、知らなかったからだ。三月二十四日、大統領はマットーゾ前連邦貯蓄銀行総裁から電話で一部始終を聞いた。オレに罪を被せるなら、連警で全部ばらすと脅された。大統領は同件について何も聞いてないと答えた。
 一市民に対して強姦に等しい野蛮行為が行われて二週間、大統領は同件に一切触れない。報告は現実性に乏しく、国民に事情を説明するには時期尚早であると、大統領は側近に洩らした。どちらにも取れるあいまいな表現は、大統領の得意業だ。
 三月二十七日、マットーゾ前総裁はパロッシ氏に裏切られたと、前財務相を虫ケラのように連警に引渡した。前財務相の辞任式では、裏切られた思いというには矛盾する最大の惜別の言葉と嗚咽で大統領が送辞を述べた。
 問題は、パロッシなき後の政権だ。政治の状況と政権を担った面々で見ると、ルーラ大統領は歴代大統領の中でも協力者に権限をよく委譲した大統領といえそうだ。ジルセウ氏は首相の役目をこなした。パロッシ氏は大統領の片腕として女房役を担った。
 クビチェック元大統領が五八年、竹馬の友アウキミン財務相を解任したとき、元大統領は悲しみの片鱗も見せなかった。国民も驚かなかった。クビチェック政治は独裁ではないが、大統領の一存で動いた。文字通りのJK政権であった。
 しかし、パロッシなき後のルーラ政権は、ルーラ色を見せなければならない。歴代大統領は、ルーラ大統領のように権限委譲をしなかった。ブラジルの政治史では、大統領が政治を独り占めにして孤立した例は珍しくない。
 ヴァルガス元大統領は五四年、孤独の中で自殺に追いやられた。ジャニオ・クアドロス元大統領も、過激な大衆迎合政策を採り自党からも見放された揚句、六一年に辞任。コーロル元大統領は弾劾決議の前夜、一握りの友を残して見放されたことを悟った。
 ルーラ大統領の孤独は、少し違う。ジルセウ氏やパロッシ氏の失脚は、大統領にとって重臣を失ったというより心の友を失ったのだ。PTの全ての罪を背負って退いたソアレス前財務担当は、下宿の同室で一つのサンドイッチを分け合って食べた仲だ。
 ルーラ無名時代の同志との絆は、血縁よりも固い。同志が離れたのは現任期の間だけで、やがて復活する。ルーラ党の絆は、ブラジルにありふれた利害関係で集まった徒党とは違う。ルーラが旗を揚げれば、全国から馳せ参じる「いざ鎌倉組」なのだ。
 PTは今、自分でつくった裏金というお化けに振り回されている。〇六年も四月なのに、〇六年度予算案が表決されていない。最低賃金三五〇レアルは、四月から支払うので暫定令で間に合わせる始末。八閣僚が三月末、辞任したが空席のまま。閣僚級の人材不足である。