2006年4月21日(金)
十八日に開かれたブラジル日本商工会議所昼食会で、サンパウロ州矯正管理施設局長の古川長(フルカワ・ナガシ)氏が講演した。テーマは「サンパウロの刑務所管理と公安」。州内の刑務所管理状況を説明するとともに、経費削減など六年間の在任中に取り組んだ運営改善の実績などを紹介した。矯正施設を民間企業や都市にたとえながら進められる講演に、出席者は聞き入っていた。
州内には現在、百四十四カ所の刑務所、拘置所などの矯正管理施設がある。職員数は二万九千人で、年間予算は十億レアル。
受刑者は〇五年現在で約十二万三千人。古川氏が局長に就任した時には五万三千人だったという。六年で倍増したことになる。今年に入ってから四月までに、新たに二千八百人増えた。
「就任してからテロが急増しました。民間企業にたとえれば、サンパウロの刑務所ほどの成長率があるでしょうか」とその急増ぶりを表わす。
リオでは近年それほど増えていないが、サンパウロでは年一、二割の伸びを見せていると語り、その要因としてサンパウロの警察、司法の仕事能力の向上を挙げた。
「私は典型的な二世」「七歳までは日本語しか話せませんでした」と語る古川氏。サンパウロ州ブラガンサ・パウリスタ市の裁判所で判事を勤めていた九九年、故マリオ・コーバス知事により、現職に就任した。
在任六年。運営改善の成果として強調するのが、逃亡率の減少だ。
以前は、市内の警察各所の留置所が利用されており、逃亡も頻発していた。その数は九五年から九九年までに二万人に上ったという。「検察や司法の努力が無駄になっていた」
古川局長の就任後、留置場の使用をやめ、各地の矯正管理施設利用を進めた。その結果、〇五年までの四年間で逃亡者は六百人(年間百五十人)まで減少。
逃亡率も九九年時点で〇・七四%だったのが、〇五年には〇・一一%まで下がったという。局長は英国の逃亡率が〇・〇八%であることを紹介して、その成果を強調した。
その一方で、経費の節減にも努めた。就任以前は受刑者一人あたり千二百レアルかかっていた経費が、NPO団体などと協力して食費などを抑えることで、現在では六百八十七レアルまで下がった。
「高いと思うかもしれません」と語る古川局長。「受刑者を都市の人口と考えたら、十二万四千人はブラガンサと同じ規模。全ての住人は出たいと思っていますが、こちらは出て行かないようにするのが仕事」として、食事や衣類、弁護士、医療など受刑者に様々な経費がかかる現状を説明。「治安向上のため」と協力を求めた。
反面、今年に入ってから刑務所暴動が増加していることにも触れた。〇三年にはゼロ件だったのが、今年三月にアルキミン州知事が退任を表明した後に急増したという。これに関して局長は、犯罪組織の存在の可能性も指摘する。
このほかにも、受刑者のための医療設備や女性、精神病患者のための設備などを紹介。
施設内での労働、学習も進めており、現在は十二万三千人の受刑者のうち、五万二千人が働き、一万八千人が各種の講座を受けているという。
まだ仕事をしていない受刑者が四万人いるという。古川局長は、民間企業と共同で受刑者の労働を進めていることを紹介した上で、会場の企業関係者に意見交換をよびかける場面もあった。