「涙なくして聞けない話ですよ」。ブラジル人との交通事故で愛娘を亡くした日本人女性に、先ごろ、静岡県で面会した二宮正人弁護士はそう話した。事故を起こした日系女性はブラジルに逃亡。「このままほっておいてはいけない」と電話越しに力強い声が響いた▼この帰伯逃亡デカセギ問題に関して、日本では犯罪人引き渡し条約をブラジルと締結する動きが高まっている。大いに歓迎したい。ただし、ことを急ぎすぎて、筋道を間違えてせっかくの動きを徒労にしないよう、専門家の助言にも耳を傾けてほしい▼当地の国際法に詳しい弁護士によれば、ブラジル憲法には、たとえ犯罪人であっても自国民を外国に引き渡すことはない、と謳っている。すでに数カ国と同条約を結んでいるが、憲法により実際に引き渡されたことはないという。ならば日本が同条約を締結したところで状況は変わらないことになる▼伯日比較法学会の渡部和夫理事長らは、来月から専門家数人による検討委員会を始める。これは犯罪者を日本に引き渡すというよりは、外国での犯罪をブラジル国内で裁くための代理処罰の手続きを簡素化、加速化する研究を目指したものだ。場所がどうであれ、結果的に犯罪人が裁かれればいい▼二十五日に三重県四日市で開かれた外国人集住都市会議で、参加した六県の十八市町は条約締結に全員一致で賛同し、六月に国に提出する規制改革要望書に、条約早期締結を盛り込むことになった、という▼引き渡し条約にしぼらない、広い範囲の司法共助を盛り込んだ提言として両国政府へ要請するような舵取りを期待したい。(深)
06/04/27