2006年5月10日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙九日】ボリビア政府が六〇%のガス価格調整を要求したことを受けたペトロブラスのガブリエリ総裁は八日、価格はゼロ調整とするブラジル側の回答をYPFB(ボリビア石油公団)へ伝え、双方対等の立場で話し合うことを申し入れた。ボリビア政府によるペトロブラスの設備一部接収に対し、賠償要求も示唆した。ボリビアの法令によれば、国有化によって接収した資産は賠償の対象になると規定されている。ペトロブラスの設備はそれと考慮される。ボリビア政府は、株式譲渡の形式で応じるという。価格調整を容認するルーラ大統領の見解は、ペトロブラスの事業展開に支障を来たすと関係者が憂慮している。
YPFBが一方的に価格調整を要求するなら、ペトロブラスにも要求する権利がある。双方は理性ある者として対等の立場で交渉に臨むべきだと、ガブリエリ総裁は訴えた。同総裁はロンドー鉱山エネルギー相を同伴して十日、ラダ・ボリビア石油相やYPFB総裁と会談を行う。YPFB総裁は九日、ボリビア・ガス国有化のシナリオを創作したとするベネズエラ・ボリビア謀略説を否定した。
たとえボリビア政府が価格調整を敢行してもペトロブラスが吸収し、消費者に価格転換をしないというルーラ大統領の声明に、関係者の批判が集中している。ボリビア・ガスの生産量はペトロブラス全生産量の二%に過ぎないことから、同公団への損害を最小限に留める交渉を行うことで認識が一致した。
大統領がペトロブラスに対し差額吸収による価格転換回避を命じたのは、未曾有の出来事である。六日の大統領声明は差額を吸収できなければ、原価を割ってでも赤字販売をせよという意味である。ペトロブラスの株式は六八%を一般株主が所有しており、大統領といえども勝手なことは許されない暴挙である。
ボリビア危機の影響は、まだ金融市場に大きく現れていない。ペトロブラスの資産状態にもほとんど影響はないが、ガスの安定供給体制を築くためにボリビアへは四〇億ドル以上を既に投資している。ボリビアのガス危機は、ペトロブラスよりもサンパウロ州のガス消費産業群にとって一大事である。
ルーラ大統領がラジオで、政府は国際オンチという批判があるが、ボリビアは貧しい国で国民は飢えていると述べた。ボリビアに対しブラジルは報復も挑発もしてはならないと諌めた。ブラジルもかつて資源の国有化を行った経験があり、ボリビアに対しても理解を示すべきだという。
一方、ボリビアではモラレス大統領が、ガスの価格調整は政治取引であるとの声明を発表した。同大統領の国有化宣言は同国民から拍手喝采を以って迎えられた。国有化のニュースは、号外並みの売れ行きだ。同大統領は国民の絶対的支持を得たことで、これまで不可能とされた改革を次々決行すると思われる。
サンパウロ市に居住するボリビア人移住者八万人の間で、帰国の噂が飛び交っている。ボリビア人はカニンデーの露店市に集まり、モラレス大統領の国有化宣言を勅書の朗読を聞くかのように拝聴した。DVDに録音し、ボリビア人移住者に販売している。臥薪嘗胆のボリビア史にとって記念すべき日だという。