2006年5月10日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙六日】ルーラ大統領の南米外交は、モラレス・ボリビア大統領の国有化政策により砂上の楼閣のように崩壊したと、リオデジャネイロ国立大政治学科のウエフォート客員教授が分析する。ルーラ政権の失政で済むことではなく、政権がインフラ整備に取組まなかったことが問題だとした。ボリビア・ガスパイプラインは前政権が造ったものである。ルーラ政権はボリビア・ガスの重要性を知りながら、ボリビア・ペトロブラス設立と本格的テコ入れをしなかった。前政権の遺産で惰眠を貪っていた道楽息子のようだ。
ボリビア問題でルーラ大統領は話せばわかると妄想を国民に売りつけている。プエルト・イグアスーの四首脳会談を「団結する兄弟」と呼ぶ大統領は誇大妄想症といわざるを得ない。大統領の感覚では、三銃士がウルグアイのヴァスケス大統領を入れて五銃士になったと思っている。
五銃士が助け合うと思ったら病的妄想である。モラレス大統領は、ブラジルの弱味に付けこんで無理難題を持ち込む。チャベス大統領はペルーの総選挙に干渉して、軍人に肩入れをしている。当選の暁には、ベネズエラの子分に仕立てる考えだ。
ブラジルに対するチャベス大統領の本音は何か。ボリビアからアルゼンチンまでブラジル領土を通ってガス・パイプラインを引かせ、それにベネズエラのガス・パイプラインをつなぎ南米全土にガスを供給する計画である。
南米をベネズエラ・ガスの縄張りとするには、米国の関与は商売のジャマになる。四首脳会談の前にチャベス・モラレス両大統領は、カストロ首相と秘密会談を行っている。そこでボリビアからペトロブラス追放後、ベネズエラの技術陣が操業することに話がついている。
ウルグアイは、米国との間でメルコスル離脱後のシナリオが既にできている。ウルグアイはメルコスルのオブザーバーとなる。同国にとってメルコスルは、得るより失うほうが多い。こんな仲がどうして兄弟といえるか。
悪夢にうなされるルーラ大統領はボリビアの兄弟に裏切られる。両国間に交わされた国際契約の矛を向けると、国家主権の盾で守る。同契約書には両国の国家主権に関する項が脱落している。
ルーラ大統領は大統領選挙を前にガスの安定供給を宣言するが、価格は法外調整となる。さらにモラレス政権下ではペトロブラスは赤字経営になる。ペトロブラス撤退の代価は、ボリビア・ガスで操業する企業の上に降りかかる。
ボリビア・ガス異変から何を学ぶか。まずボリビア・ガスの代替である。ボリビアのガス・パイプラインは、一夜の夢であったということだ。ペトロブラスのガス採掘場への陸軍派遣は、ボリビア・ガスの暴騰を意味する。ブラジルが納得するガス価格の調整は、至難の業と見られる。
ルーラ大統領が夢見るボリビアやベネズエラを入れた南米連合は、夢のまた夢である。ルーラ大統領のモラレス支援は、国際政治の無知がなせる業といえそうだ。ルーラ大統領の政権獲得は情熱に訴えたもので、理性に立脚したものではない。だからボリビアの天然資源国有化宣言の本音が見えないのだ。