2006年5月10日(水)
【ヴェージャ誌一九五三号】美容師のマルシアと露天商の夫ジルソンは、ヴィトリア市のファベーラ(スラム街)にある小さな家に住んでいるが、家の中は大型TVやDVD、音響セット、その他の電気製品が所狭しと並んでいる。全て長期ローンで購入した。夫婦の月間所得は二〇〇〇レアルで、ブラジルの典型的庶民の家庭だ。
典型的庶民はこれまで醜いアヒルの子であったが、銀行にとって白鳥ならぬ美味しい鴨に急変した。家電販売店やデパートのローンによる押し売り販売は、熾烈を極めている。このクラスの庶民は、年間一〇〇%以上の金利を払って平気なのだ。こんなボロ儲け商売はいまどきない。
ブラジルの歴史でローンにこんな大判振舞いをしたことはない。これまでローンといえば、不安定で不透明の代名詞であった。ローンを組んだら、債務不履行の危険が付きまとった。それが過去五年間に情勢が一変。焦げ付きが出ても、回収ローンで償却できる見通しがついた。
通貨政策委員会(COPOM)の基本金利は高いと産業界から苦情をいわれても、ローンに走る消費者にはどこ吹く風である。消費者ローンの総額は二〇〇五年、一五四二億レアルに達した。これまで銀行とは縁がなかった全国民の七七%に当たる一般庶民が押し寄せたものと思われる。
クレジットの様相をデータで見ると、銀行や金融業者と提携する商店は〇三年から〇五年、業績を四五九%伸ばした。サラリー先払いローンも〇六年、三三六億レアルを売上げ、倍々ゲームである。
クレジット会社最大手クレジカードの報告では、五〇〇レアル以下のカードが一番多く、〇六年に一〇〇億レアルのローンを組み年一四四%増の勢いで増え、同社のドル箱である。
スーパー協会の報告では、買い物客の半分以上がカードで支払いをし、年々倍増のキャッシュレス時代が到来した。この現象がもたらす罠には、誰も無関心のようだ。レアル・プラン華やかりし一九九五年から見ると、現在の所得は半減した。五年、十年後の所得を誰が予測できるか。
〇五年までの最低賃金はインフレ率以上に調整され、食費と電気製品はインフレ率以下であった。低所得層には、家電製品の購入環境が整った。消費市場の変化は過去の苦い経験が生んだものといえる。レアル・プランを信じてローン販売に賭けた業者は、呆気なかった景気に苦杯をなめさせられた。
現在は二つの点で、往年と異なる。安定経済とリスク管理の習得にある。低所得層のマーケット開発が現在の繁栄の原因ともいえる。カーザ・バイーアは、誰でも所得証明なしに二最低賃金以下のローンを組むという。同店はブラデスコ銀行と提携したことで、ローンを組む資金を捻出する必要がなくなった。そのため支店増設に力を入れた。いまや銀行は消費者ローンで、商店はローン販売で笑いが止まらない。