2006年5月17日(水)
【ヴェージャ誌一九五三号】政治危機で混迷するブラジルの問題は、インドや中国が抱える所得格差や非民主的社会形態と比べれば単純なことと、インド人経済学者ヴィノド・トマス氏が述べた。ブラジルは、やり方次第でインドや中国を追い抜くことが可能であるという。同氏は世銀の出向で五年間、ブラジリア滞在のかたわら「内側から見たブラジル」を執筆した。ブラジルはインドや中国と並ぶ世界経済の牽引車になる材料が全てそろっている。同氏の処方せんを実行するなら、ブラジルは五年で世界の冠たる経済大国になれるという。
以下は同氏の見解。
【ブラジルが有望な理由は】五〇年代の世銀調査によれば、アジアではミヤンマー、フィリピン、インドネシア、タイ、韓国の順で将来が有望視された。今は韓国がごぼう抜きでトップに出た。ブラジルは基盤の堅固な企業群と天然資源、創業精神が旺盛な国民に恵まれ、韓国よりも好条件を有する。ブラジルが途上国を追い抜きトップに躍り出ることは、不可能ではない。
【中国を追い抜くポイントは】中国の経済発展は目を見張るものがあるが、専制政治の国であり、長期間にわたって独裁的体制を維持できるかは疑問である。国際市場で取引を永続するためには、世界のどこでも容認される制度でなければならない。中国はそのために労働法や国際通商法など、矢継ぎ早に法改正を行った。しかし、中国が民主主義を導入するかが今後の課題だ。ブラジルはこの点、先輩である。
【インドの民主主義は】インドには階級制度があり、まだ二億五〇〇〇万人の社会疎外者がいる。ブラジル人口の二倍に当たる人たちだ。昔はまず国が豊かになり、次に国民に分配すると考えたが、間違いであることに気付いた。まず社会問題を解決してから、経済成長があることに気付いた。
【ブラジルの問題は】ブラジルには五分野位の改革で済み、革命が必要な問題はない。改革の第一は、税制と社会保障制度。第二に無駄のない効率的な政府経費の管理と公共投資の促進。第三に教育と医療への資金投入。第四は天然資源の上手な活用。その前に政治改革が先攻する。
改革は、大きな改革より小さな改革が難しい。ブラジルは二〇〇六年、大統領選を迎えることで、政治改革に国民の関心が集まり有意義な年といえる。次にブラジルの政治改革には世界も注目しているので、後回しにできない。ブラジルが生き残る上で、ライバルは中国だけではない。最近力を付けている東欧にも注意すべきだ。早急な政治改革を怠るなら、ブラジルの死活問題になりそうだ。
【ブラジルは何年で、中国の経済成長率に達するか】五年で八%まで可能。ブラジルは平均所得でインドや中国より高い水準にあり、八%成長できる消費市場と成長条件がある。モラルの低い鶏の羽ばたきから、卒業する時期にある。
【政治改革の方法は】政治改革の心得は、つねに社会の関心を改革に向けること。国民自身が改革の必要を肌身に感じているはず。改革が遅れるのは議会が少数派の利害に振り回され、国民の意が反映されていないからだ。ブラジルの伝統的習慣で、追い詰められないと踏み切らない。
例えば議会はいつも、社会問題を後回しにした。ブラジルは九〇年代、社会秩序がベストテンに入っていた。コーロル政権の教訓から、財政責任法を制定した。同法によりマクロ経済とファンダメンタルズは、飛躍的に改善した。次は社会整備の番である。
ファダメンタルズの改善は、ルーラ政権の功績かカルドーゾ政権の功績か分らない。ただPT政権に入って規律が確立したといえる。PT政権が余剰資金を外債の決済に充当し、公共投資を後回しにして未来の安定を選んだのは賢明といえる。政府に浪費癖がある国は、債務決済を優先するのが正解である。