2006年5月17日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙三日】ボリビアの資源国有化は、ブラジルに深刻な問題をもたらすと国際経済研究所(ICONE)のサワヤ・ジャンク教授が憂慮している。これは国内の政治改革や構造改革に取組まず、大衆迎合と国際条約破棄がボリビアの抱える問題解決の近道と考えているからだという。
ラテン・アメリカ諸国では、天然資源を産業発展に活用するのではなく、政治的に利用しようとする傾向がある。ベネズエラのチャベス大統領は原油高騰の波に乗り、大衆迎合丸に乗り込んだ。アルゼンチンのキルチネル大統領は、穀物輸出に二〇%の輸出税を課し、国内のインフレ抑制のため牛肉輸出を禁じた。
国家主権を理由にアジ演説を打つのは簡単なことである。構造改革の努力をなおざりにして、経済に行き詰まりを来たしたとして国際通貨基金(IMF)や多国籍企業、米州自由貿易圏(FTAA)を諸悪の根源に仕立てるのは、容易なことである。
世界の悪は米国であったが、ボリビアの悪にブラジルが吊し上げられた。ボリビアの閣僚が貧しいボリビア国民にとって吸血鬼はペトロブラスであると訴えた。悲しいかな南米の政治家は、代価を払わずにありつけるご馳走などあり得ないことを知らないのだ。
資源の国有化は、無能政権の常套手段である。国有化によって無責任な雇用創出を行おうと考える。安易な大衆迎合主義は、すぐに生産と投資で行き詰まる。その結果は経済の低成長と過重債務である。雇用創出と所得増加計画で、政権は能力の限界を露呈することになる。
ブラジルは国有化の失敗例に事欠かない。エンブラエルやヴァレ・ド・リオドーセ、CSNが業績を上げたのは、民営化後である。ブラジルの農業が繁栄したのは、政府が農産物価格の凍結や牧牛の没収を止め、市場介入を断念してからである。
無資源と過剰人口でゴッタ返す東アジアの発展に、ブラジルは学ぶべきである。アジアの発展は、法整備や教育、治安などのインフラ整備と産業構造の充実にある。空飛ぶがんといわれた八〇年代以降アジアの発展は、日本の技術指導と戦後復興システムの導入が基礎にあった。
東南アジア共同体の結束力は、世界経済の牽引車となっている。いっぽう南北アメリカは政治的にも通商的にもバラバラである。米州自由貿易圏(FTAA)構想は、三十四カ国が五〇〇回も会議を行ったがまとまりそうにない。
FTAAは二派に分裂する傾向がある。一つは、米国を中心にメキシコやチリなどが太平洋地域と連携を強める考えだ。このブロックにはEUや日本、中国、韓国が参加の意向を表明した。もう一つは、チャベス大統領やカストロ首相が提唱する大西洋連合(ALBA)だ。
ALBAが反米傾向を強め、国有化や国内産業の保護を打ち出すことは想像に難くない。ブラジルはFTAAとALBAの間に挟まれ、どっちへ舵を取るか迷っている。ルーラ構想の南米共同体は段々色あせてきた。ブラジルは米州諸国から異端児と陰口をたたかれている。