2006年5月18日(木)
【既報関連】「日本で行われた犯罪を、ブラジルで訴訟を起こして裁くことは可能」との見解が、十六日午後七時過ぎから文協ビル内の百周年祭典協会会議室で行われた、伯日比較法学会(渡部和夫理事長)の帰伯逃亡デカセギ問題に関する第一回討論会で確認された。ブラジリアの外務省はじめ、サンパウロの法曹界からも約三十人が出席し、二時間半にわたってさまざまな側面から議論が行われた。訴訟手続きを簡素化するための司法共助に関する法案を検討する委員会が組織された。
最初に渡部理事長(元州高等裁判事)から、静岡県浜松市の北脇保之市長から先月送られてきた要望書が紹介され、日本側の強い要請により検討が始まったと経緯を説明した。
ブラジル外務省の法規局のレオナルド・オリベイラ・モウ局長は、すでにブラジルが締結している外国人引渡し条約(チリ、パラグアイ、スペイン、韓国など)の締結文書を示した。ただし、ブラジル憲法により、自国民の外国への引渡しは禁じられているため、議論は当初から国内法を国外での犯罪にどう適用するかに絞られた。
この討論会をコーディネートした原田清氏が議事進行を担当。まずは国外の犯罪を国内法で裁くことに関して討論された。損害賠償などの民法上の国外での判決は国内でも適用可能だが、刑務所に入れるなどの刑法上の判決は法制度の違いから難しいとの見解になった。日本の刑法では死刑があるが、国内にはないなどの問題があるため。
次に刑法上の処罰に関して、外国での犯罪を国内で裁判を起こすことに関して討論になった。当日は急用で欠席したが、最高裁元裁判官、シジネイ・サンシェス氏は多数の関連判例を事前に送付した。その中に、アルゼンチンで盗難事件を起こしたブラジル人が最高裁で判決を受け、処罰された事例があった。それらを検討した結果、可能との判断で一致した。
途中、二宮正人弁護士は、静岡県で起きたブラジル人女性との交通事故で二歳の娘を失った山岡夫妻と面会した経験を紹介。「このままでは、三十万人のブラジル人同胞のイメージが大きく損なわれる」と強調した。
外務省サンパウロ代表事務所のジャディエル・デ・オリベイラ大使も「完璧な対策は無理でも、政治的な問題に発展する前に改善策を練るべき」との見解をしめし、袋小路に行き詰まりがちな難解な刑法論争に実践的な方向性を示した。
タツミ・ジョーサンパウロ州高等裁判事は「ここの場では法理論を話し合うべきで、被害者が出てくるような具体的な事例については別の場で議論してほしい」と釘をさした。
刑事裁判を起こす場合、現在の法律を改正せずとも可能。ただし、各国の外務省・法務省を経由して裁判書類が送られる現在の制度では、本人に裁判書類が届くまでに数年かかる。しかも、書類の七〇%程度は転居などにより届かず、送りかえされるだけ。
そのため、裁判の手続きを簡素化、敏速化する必要があるとの認識で一致し、その場で、司法共助の日伯協定のたたき台となる法案を作る検討委員会が組織された。メンバーは大学教授、州高等裁検事、弁護士ら専門家九人。「日本側の法律専門家と協調して法案を具体化させる」ことが承認された。
コーディネート役の原田氏は「日本の日系人のイメージが悪化すると、間接的にブラジル全体に影響を与える。放っておけない問題だ」と強い口調で語った。
今後、この委員会で法案を考えると同時に、今回の検討内容の詳細を近日中にサンパウロ総領事館に相談、浜松市長へ報告する予定。なお当日はこの他、サンパウロ州高等裁検事のナカゾネ・アジノール氏、同シムラ・セルジオ氏、同高等裁判事のシクタ・キオシ氏らも参加した。