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後遺症に苦しむ誘拐被害者=本人に加え家族も=心労からノイローゼに=クリニカ病院専門家配置

2006年5月19日(金)

 【フォーリャ・デ・サンパウロ紙十四日】身代金目的の営利誘拐事件の被害は、被害者本人はもとより家族に多大なストレスを与え、後遺症として後々まで健康障害の原因となる。むしろ家族の方が、情報が入らずに不安な状態が長く続き、安否を気遣うあまり極度のノイローゼに陥ることが多い。サンパウロ市内のクリニカ病院ではそれらの人々を専門に治療する心療科病棟があるが、今年から誘拐発生時から家族のもとに出向き、犯人との交渉などに助言したり、心理的治療を加える専門グループを配置して注目されている。
 サンパウロ市在住の四十八歳の男性が行楽に出掛けた海岸の浜辺で突然、心臓発作で倒れた。幸い一命は取り止めたものの、医師は極度の心労による心臓機能の低下と診断、治療を続けるよう言い渡した。実はこの男性の娘(19)が誘拐されて二度にわたり身代金を払った挙げ句に、ようやく十日前に解放されたばかりだった。解放までの監禁は実に八十七日間に及んだ。これが父親の心労の原因だった。
 父親ばかりではなく、母親(42)と被害者の弟(14)も精神的疲労から過度のノイローゼとなり、不眠や耳鳴り、食欲減退が重なり健康を害していた。誘拐された四日後に犯人から連絡があり、指定された場所に身代金を運んだが娘は解放されなかった。その後犯人からの連絡が途絶えたことで、ますます不安が募り家族の病状も悪化した。
 この時点で男性はクリニカ病院に助けを求めた。専門の医師が駆けつけてくれ心理療法が始まった。医師は一般心理学のみならず、誘拐犯罪時の犯人を含む関係者の心理のエキスパートであることから、犯人が第二の身代金要求をしてきた時も交渉役となった。専門家だけに犯人側も信用、金の受渡し人として医師を指定してきたほどだった。
 これで娘は無事解放された。しかし家族、とくに母と息子のショックは治らず治療が続行された。父親は感情をあまり表に出さないことから病状に気がつかず、心労で倒れる破目となった。
 医師によると、誘拐事件の場合、当の被害者は恐怖にとらわれるが自分が置かれている状況を把握しているので精神的不安は少ないという。逆に家族は暗中模索が続き、被害者よりも重傷に陥るとのこと。これを後遺症トラウマによるストレスと言う。このグループでは今年に入り四件の誘拐事件の治療に当たったが、犯人との交渉は初めての例。これを年内にさらに増やして行きたいとしている。
 これまでは家族を二の次にしていたが、被害者同様に治療が必要だという。現に今回の事件の家族は過去に七回強盗に遭遇し、一度は発砲されたこともあったが、後遺症には至らなかったとのこと。
 サンパウロ州の営利誘拐事件は一九九九年までは十件台だったが、二〇〇〇年に六十三件、さらに二〇〇一年には三〇七件と急増し、翌二〇〇二年には三二一件の最高を記録した。その後二〇〇三年から二〇〇五年は一一八件、一一二件、一三三件と横ばいとなっている。今年第1・四半期は二十八件で昨年同期と同数となっている。