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デカセギ子弟教育=ぶつかる壁厚い――JETの清水さん帰伯報告

2006年5月20日(土)

 「最大の問題で、解決は困難だと思う」。
 清水リーナ春美さん(40)は、在日ブラジル人の抱える問題について尋ねると、子弟教育に言及し、こう応えた。
 リーナさんは、三年間のJETプログラム(正式名称=語学指導等を行う外国青年招致事業)を終え、この三月に帰国したばかり。これまで何度か日本を訪れていたが、今回の派遣では、(財)岐阜県国際交流センターの国際交流員として働いた。
 日本での二年目。ブラジルでの生活経験を持つ課長と出会い、また外国籍児童の不就学状況などの調査に関わるようになった。何軒かの家を廻り話を聞く。「子弟教育の現状が少しずつわかってきた」という。
 「問題の深刻さと解決の困難さを痛感しました」とリーナさん。要因は多様にある。
 「やっぱり言葉がわからないし、いじめもあるし、友達ができなければね」。学校に行っていない子供は、駅にたまるなどしてあてなく過ごし、「親も子供が何をしてるかわからない」状態。リーナさんによれば、岐阜県内の不就学児童生徒は増えており、八%が学校に通っていないという。
 また、もてあました時間で盗みに走る子もいる。物の溢れる日本で、周囲の人が持つ最新の機器を欲しいと思うのは当然の心理か。犯罪は万引きに始まり、車上荒らし、車窃盗と助長していく。
 同県内には、教育省認可のブラジル人学校が三校あるが、月謝は一人五万円。「ある家では、旦那さんが仕事をクビになったから、二人の子供が学校に行けなくなってやめた」のだそうだ。「奥さんの給料だけでは生活も苦しそうだった」と経験談を語る。
 しかし、「一番重要なのは家族の考え方」とリーナさんはいう。両親が子弟教育の必要性をどう捉えるかということ。「親が教育を受けておらず、それでも日本で働いて生活できると、子供にも教育がいらないとするところがある」。
 さらに「二、三年でブラジルに帰るつもりの親は、日本語をしなくてもいいと考えるし」。リーナさんが携わった「多文化共生シンポジウム」でも、子弟教育に関する議論の中心は「親への啓発」だった。
 リーナさんは「日本の制度は、彼ら(出稼ぎ労働者)の受け入れ準備ができていない。解決策は、外国人労働者を受け入れる際の、住居を与える、保険制度に加入させる、突然の解雇をしないなど、日常生活を安定させる約束」、つまり労働基準法の遵守だという。
 両親の教育への関心、子供が学校でぶつかる壁、出稼ぎという不安定な立場の彼らを支援する制度の不備など、要因は重層的に存在している。
 「今はまだ帰ってきたばかりですけど、日本に行く機会があればまた行きたいですね」と、リーナさんはこれからの希望を語った。