転換期のラテンアメリカ=試行錯誤する政治=もう古典的左翼思想はない=南米を揺さぶるボリビア
2006年6月7日(水)
【フォーリャ・デ・サンパウロ紙二十八日】英国の歴史学者で親伯家のケネス・マックスウェル教授が、ラテンアメリカはいま歴史の転換期にあると定義した。ボリビアを震源とする地震が南米を揺さぶり、ペロニズムの不死身を知らされたという。同教授の見方では、ラテンアメリカ(以下LA)が旧時代の終焉にあり、新時代へ入ろうとしているというのだ。LAの左傾化が世界のマスコミで報じられるが、努力することなく理想社会を築こうとする怠け者の左傾化と評価した。同教授は、LAのそれは個人的には左翼と呼べるものではないという。
次は「改革また改革」と題する同教授のEメールによる投稿である。
【LAの左傾化】左翼思想といっても、筋の通ったものと通らないものの二通りがある。ルーラ大統領は在野時代、後者扱いをされた。今は前者の英雄扱いだ。本当のことをいうなら、LAの政治は試行錯誤の最中である。どの国も左翼完成品のレッテルを貼れるものはない。連立や模索による政権維持は、その好例といえる。
【二つの左翼思想】往年のユートピア論を唱える左翼思想家は、キューバも含めてLAにはいない。マルクス理論は冷戦の終焉とともに葬られた。ソ連の経験に学ぶものは何もなかったようだ。ただLAではソ連方式が反米路線に利用されている。しかし、ソ連方式がLA市場で機能しなかったことを、LAの国民はボリビア国民も含めて知っている。
【LA政治の今後】衰微する国の政治は、所得格差を広げ、社会疎外者を大量に生み出した。国内では職を求めて下層階級が都市へ上京し、中流階級も夢を求めて外国へ出稼ぎに出かける。ニューヨーク・タイムズは、この現象を地球規模の平均化と呼んだ。だがこの見方は大切なことを見落としている。
地球が平均化しているのは事実だが、平面の下に地下社会がある。地下への入り口は隠れているのでわからないが、地上社会とつながっている。上流社会では活発な営業活動と資本の流通があり、国内外をインターネットで結び、情報交換が行われている。
しかし、地下社会の最下層では児童売春や児童ポルノのネットワーク、麻薬密売、資金洗浄が混在している。刑務所は携帯電話によって犯罪組織の参謀本部として活動し、要人誘拐や車両爆破などの社会撹乱や刑務所内暴動などを自在に行っている。
中流社会では外国への移住が社会風潮になっている。ブラジルのエリート青年がボストンのレストランでボーイをしている。メキシコの学士がカリフォルニアでぶどうの収穫をしている。一口に平均化といっても、良し悪し両面がある。社会整備が遅れた地域に移住した移民は、惨めな生活をしている。
【大衆迎合の結果】コロンビアのウリベ大統領は左翼ではないが、大衆路線を採っている。まだ成果は見えないが国民も米国との付き合い方をよく知っている。ペルーはウリベ氏であれガルシア氏であれ、どのようにペルーを改革するのか未知数である。チリのバチェレ政権はヨーロッパ型社会主義だ。ベネズエラのチャベス大統領は旧型のLAリーダーだが、近代型ボスらしく振舞おうとする。
【ルーラ大統領は】ルーラ型左翼思想は思想の域に入らないし、大統領は思想家でもない。ルーラ大統領の政治手法は、米労組運動の模倣である。昔の労働運動には涙があった。今の労組幹部はペテン師だ。労使交渉や年金基金でピンハネし、政治の場でも同じことをしている。
【モラレス大統領は】誤解された左翼思想の代表といえる。モラレス大統領は、想像もしなかったことを行い、地震を起こしている。本人もボリビアの歴史五〇〇年で、アンデス山脈の国々の誰もやらなかったことをすると宣言した。数世紀にわたって不当に虐げられた原住民の悲願達成だといっている。他の国々の原住民もボリビアに倣うかは疑問である。しかし、アンデス山系の原住民が覚醒するのは確かだ。